第百九十六話 サイクロプス
巨大な一つ目の鬼は刀の切っ先を見せた俊也へ、敵意を向けつつ様子を窺っている。その巨体は俊也の3倍以上の高さがあるだろう。筋骨隆々で身体全体が盛り上がっており、とてつもない膂力を持っていると予想された。
(思い出したぞ。サイクロプスという怪物だ。こんなやつとも戦うようになるとはな)
ファンタジー系のゲームや小説など、読んだりプレイしたりした記憶をたどり、俊也は対峙している大鬼の種別を思い出すことができた。空想上の怪物と戦うとは不思議という他ないが、そんな感慨を持ちながら向き合っていると、大丸太よりも太いサイクロプスの両腕に、身体を潰されてしまう。余裕などない。
「おおおぉぉおお!!」
威嚇の意味も込めた気合声を発し、俊也から間合いを詰め、サイクロプスに斬りかかった! 虚を突き、その素早い太刀筋は一つ目の大鬼の右腕を深く捉えたと思われた。だが、信じられない反応で、咄嗟にサイクロプスは右腕を引いており、浅手程度しか負わせることができない。
「グォオオオオオ!!」
刀が空を斬った形になり体勢を崩した俊也に、大鬼は左腕で凄まじい威力のなぎ払いを見舞った! 体を下げる余裕はなく、彼はかわすことができない。かろうじて刀で受け流したが、その膂力により俊也は数メートル身体を飛ばされてしまった! 受け身を取れたものの、ダメージが残る。
「これは強い……サクラさんのアースシールドと、セイラさんの守護符がなければ終わっていたな……」
「俊也さん! こちらへ逃げて下さい!」
一連の攻防を見てサクラは、俊也でもサイクロプスに勝つことができないと判断した。戦っている当の俊也自身、それは分かっている。血路を開いて逃げるしかない。しかし、サクラがいる稜線の下りからかなり距離ができてしまった。大鬼の膂力を避けつつ、そこまで退避するのは非常に困難である。
「くっ! 行くしかないか!」
もう一度、腕力による直撃を受けたら、俊也の身体は耐えられないだろう。ダメージを負った彼の動きは先程より鈍い。それでもサイクロプスの隙を見ながら撤退の距離を稼いでいたが、
「グォオオオ!!!」
巨体を意外な優れた俊敏性で動かすと、一つ目の大鬼は俊也の進路を遮り、痛恨の右拳を見舞った!
「グッ……」
「俊也さん!!!」
拳を見切れてはいる。だが、彼の状態は万全ではない。鈍い身体を使い、何とか刀で右拳を受け流しつつ同時に斬り返す! 敗勢からの反撃もここまでであった。受け流しは完全ではなく、動けなくなるほど深いダメージを俊也は負った。サイクロプスは斬り返しを受け、右拳から多量の血を流している。しかし、動けない俊也を仕留める余力は、まだ充分に残していた。