第百九十一話 タマハガネ
ヤギュウの秋の朝は、凛とした寒さが走っている。俊也とザイールは米を主食とした朝ごはんを早朝から頂き、腹ごしらえをしっかり済ませると、二人で剣神山にある鉱山へ向かった。
その鉱山では、村人が作業着を来て採掘を行っている。鉱山というので何かの鉱石を掘り出しているのだろうと俊也は考えていたが、鉱夫が採掘していた物は、彼が予想していた物とは幾らか違っている。
「これは鉱石ではないんですか? 随分きれいな光沢が出ていますが」
「ふふふ、そう言うと思ったよ。これはタマハガネと言ってな、光沢がそのままで出ているが鉱石だよ。剣などの武器を作ったり、打ち直して斬れ味を上げるのに使われるんだ。ヤギュウの剣神山でしか取れない貴重な物でね、精錬せずにそのまま武器工房で使うことができる」
「そんな凄い物なんですか。俺の刀にも使えるのかな」
銀色の光沢を発し輝いているタマハガネは、非常に有用で貴重な鉱石であるようだ。ザイールがヤギュウに来た目的はこの取引のためだろう。どのように使われるかを聞き、ますます俊也はタマハガネに興味を示している。ザイールはその様子を少し見ていたが、純粋な目で鉱山と輝く鉱石を見る彼に、プレゼントをしたくなった。
「俊也君、少しタマハガネをあげるよ。持って帰りなさい」
「えっ!? 貴重な物でしょう? いいんですか?」
「いいよ。これも君に対する先行投資のようなものさ。俊也君は武器工房のような所を知っているかい? 知り合いがいるかい?」
「そうですねえ……あっ、そうだ。心当たりがあります。この刀を作ってくれた人がいるんです」
「ほう、それはいいな。その得物を作った人なら、タマハガネをうまく使ってくれそうだな。じゃあ、これをあげるよ」
買い付け済みで鉱石置き場の一角にある、大人の握りこぶし3個分程の大きさを持つタマハガネを、ザイールはやや重そうに両手で持ち、俊也に「持ってみなさい」と言いながら手渡した。かなりの密度を持つ鉱石のようで、俊也の両手にも確かな重さがかかっている。それが持つ銀色の光沢が、自分の得物をどのように高めてくれるのか、彼は大きな期待を感じずにいられなかった。
重いタマハガネも魔法のリュックに収めれば、非常にコンパクトになり、ミニマイズの魔法の効果で重さはなくなる。相変わらず便利な袋である。俊也は剣神山に登る前に思わぬプレゼントを貰った。彼の気力は一層それでみなぎり、タマハガネの鉱山に近い登山道まで来たのだが、丁度そこで彼を呼び止める誰かの声が、駆け寄りながら近づいてくる。