第十九話 町の傭兵長テッサイ
セイラから貰った鋼鉄のプロテクターを装備した後、体に馴染ませるためそのままの状態で俊也は刀をしばらく振り込んだ。木太刀の時のように型稽古もやってみている。急所だけを覆っているとはいえ、薄くとも鋼鉄製であるのでプロテクターはそれなりに重い。しかしながら、剣道の防具を着けていつも激しい稽古をしてきた俊也にとっては、それは特に動きを妨げるものではなかった。
オリジナルの刀も貰った防具もよく馴染んだのを感じた後、俊也は昨日の打ち合わせ通り、ギルドまで歩いて行っている。今日もサキがついて行きたがっていたが、来ても危険だからと俊也が彼女に教会へ留まるようやや強めに諭していた。サキは渋々納得がいかないような表情で納得していたようだ。
ギルドの前まで来ると、確かに5人の屈強な男たちが俊也を待っていた。日本からこの世界に来るまでの2日間は女難が立て続けにあったので、一緒に仕事をするチームの中に女性がいないのを見て俊也はホッとしている。これだけでかなり気が楽になったようだ。
「お前さんが木剣でラダ2匹を倒した噂のやつか。かなり若いな。まあよろしく頼む」
5人の中で俊也が見ていて最も(できる……)と思った男が挨拶をし、彼に握手を求めてきた。
「俊也と言います。こういう仕事をするのは初めてですがよろしくお願いします」
男が目を見てきたので、俊也も相手の目をよく見ながら握手を交わす。それによりお互いの力量を推し量っているようで、双方ともとかく言葉を交わさなくても納得がすぐにいったようだ。最もできる男はそれだけで俊也の強さを感じ取れた。
「俺はこのカラムの町で傭兵長をしているテッサイと言う。ふむ……お前さん相当強いようだが、モンスター討伐をしたことがなかったのか? 意外だな。まあ若いようではあるし、経験がまだないんだろうな」
テッサイは親切で面倒見がいい男で、モンスター討伐初心者の俊也にこれからの流れを説明し始めた。
「俊也と言ったな。ギルドから貰った地図があるだろう。で、俺達が向かうモンスターの群生地はこの町から少し北西に行った所、ここだ」
節くれたごつい指で彼は地図のある場所を指している。街道からやや外れた北西の森中である。昨日、俊也達がやってきた異世界の歪みがある森はカラムの町から真南で、指している森とは異なる。
「6人で協力すれば片付く仕事だろうが、抜け駆けなんかでチームワークを乱すんじゃないぜ? お前さんの命取りになる。まあ、後は歩きながらでも話してやろう。そう長い話にはならん」
他の4人に「よし! 皆行くぞ!」とテッサイは大声をかけ、それに「おう!」と従う形で討伐チームは目的地へ動き始めた。
(今日はこの人についていけば大丈夫そうだ)
危険な仕事に臨むながら、テッサイに信頼感を持った俊也の気は楽そうである。何より女難から解放されているのが、彼にとっては安息だった。