第百八十九話 懐かしいお茶
ムネヨシが直々に茶を運んできてくれた。これも和風で、タナストラスでいつも飲んでいる紅茶ではない。番茶である。
「これは久しぶりだ。このお茶が飲みたかったんです」
「ほう。紅茶ではなくこちらを好まれるか。ヤギュウの他でも番茶を飲むところはありますが、そこから来られた方なんですな」
茶の友に出された煎り豆をつまみ、俊也は懐かしい番茶を飲んだ。慣れ親しんだこの茶に大満足である。そのおかげで緊張が解け、すっかりリラックスできた彼は、ムネヨシに断って、正座を崩し足を伸ばして会話を交わそうとしていた。
「ありがとうございます。この村は俺の故郷と似たところがあって、何もかも落ち着きます」
「はっはっはっ! いやいや、気に入ってくれて嬉しいです。あなたが良ければ何日でも留まりなさい。歓迎します」
「はい。そうしたいのですが、そういうわけにもいきません。ムネヨシさん、ノブツナ先生に会いに行ってもいいですか? 俺はノブツナ先生に稽古をつけてもらわないといけないんです」
また俊也の眼差しが引き締まったものに変わり、彼はイットウサイから貰った、ノブツナへの紹介状をムネヨシに見せた。見事に真っ直ぐな姿勢で座って俊也と対しているムネヨシは、それを一読すると驚き、彼の方に改めて体を向き直している。
「俊也さん、あなたはイットウサイをご存知だったのじゃな。それに目録も許されていると……いや驚いた。あなたは若いながら相当な剣士と見ていたが、ここまでとは……」
「恐れ入ります。ですが、もちろんまだまだイットウサイ先生の足元にも到達できていません。その未熟な自分をノブツナ先生に高めて頂きたいんです」
ムネヨシは俊也の熱意に感じ入っているが、わざとノブツナのことをあまり話していないように思える。しかし、俊也がイットウサイから目録まで許されているという事実が明らかであるので、不思議な剣気を持ったこの翁も話さざるを得なくなった。
「分かりました。ですが俊也さん、剣神山には危険がある。それでもノブツナ先生に会いに行く覚悟はお有りか?」
「はい。危険があるからといって、引き返すつもりはありません」
「ふむ、よい意気だ。それではこれを頼りに登りなさい。それと、わしからも一筆、ノブツナ先生に書いておこう」
俊也の爽やかな強い心意気に打たれ、村長ムネヨシが渡してくれたのは、剣神山の詳しい登山図と、ノブツナに宛てた推薦状である。人物として推薦されているのは言うまでもなく俊也だ。