第百八十三話 悪戯心
読みやすい綺麗な字で書かれた手紙の内容はこうであった。
(久しぶりの連絡になるね、元気でやってるかい? 俊也君が探していたノブツナという剣術の先生が居る場所が分かったよ。セイクリッドランド領内の剣神山という処にいるそうだ。君はその山を、もう見たことがあるかもしれないな。聖都から北に向かうと見えてくる山さ。私は今、その剣神山の麓の村、ヤギュウにいる。ここでしか採れない物があってね、その取引でしばらく居るよ。こっちに来られたら私を探してみてくれ。俊也君の力になれるし、久しぶりに会ってみたいからね)
ザイールの誠実な人柄が表れている文の書き方である。俊也はその手紙を二度読み返し、
「サキ、セイラさん。俺は剣神山に行くよ。ザイールさんとノブツナ先生に会わないといけない」
何もかも決めてしまった目で、加羅藤姉妹にそう簡潔に伝えた。言ったことが簡潔過ぎて、サキとセイラはいったいどうしたのかと思ったが、俊也からザイールの手紙を受け取り、彼女たちも内容を読んでみると、そういうことかと合点がいったようだ。
「わかりました。私達もついて行きます」
「いや、サキとセイラさんには、別でしばらく留まって欲しい所があるんだ」
「えっ!? 留まる? どういうことなんですか?」
「ああ。留まるというか、修行をして欲しいんだ。といっても、俺のように剣術の修行じゃないよ? ちょっとこの手紙も読んで欲しい」
赤髪と黒髪がそれぞれ映える美人姉妹は、困惑していた。一時的にとはいえ、俊也と離れ離れになるからだ。サキなどはそれがとても嫌で、明らかに不機嫌になっている。セイラは表情にあまり出していないが、彼女にしても同様だろう。女心に疎い俊也であるが、ここまであからさまな態度を見れば、さすがに自分のことを思ってと気づく。そこで、珍しく彼の方から加羅藤姉妹の手を優しく握り、まず、ジェシカの書状を読むように促した。彼女たちは納得しないながらも、俊也の手の温もりに少し機嫌を直し、その内容を読んでいる。
「なるほど、分かりました。私達は魔法の修行をするのですね?」
「そして、魔力を高めて新しい魔法を覚える。そういうことね? 俊也さん?」
「うん、そうだよ。サキとセイラさんにしかできない修行なんだ。ジェシカさんは、君たち姉妹の魔力を認めてくれている。頼むよ~」
俊也は加羅藤姉妹に対し、女神や観音様を拝むように手を合わせ頭を下げた。そのようなことをせずとも、彼女たちは俊也を助けるために、ネフィラス神殿で魔法の修行をする心づもりであるが、二人の美人は、自分たちに頭を下げている想い人を見て、少しだけ悪戯心が芽生えたようだ。