第百八十一話 ジェシカからの餞別
「セイクリッドランドの神殿でこんなことができるんですか? 魔力と魔法が身につくとありますが?」
「はい。誰しもというわけではありませんが、サキさんとセイラさんにおいては、神殿で魔力を磨くことにより、新たな魔法の可能性がきっと生じるはずです。彼女らを連れて、この紹介状を神殿の者に渡してください。力になってくれます」
「それは……ありがとうございます! 思ってもみない物をもらえました。そろそろセイクリッドランドに行って情報を集めるつもりだったので、丁度のタイミングでした」
ここまで俊也が喜んでありがたがるとはジェシカも思っていなかったようで、普段無表情な彼女だが、彼のてらいもなく嬉しがる姿に、慈愛に満ちた優しい顔で微笑みを浮かべていた。
「よし、それじゃ帰るか。修羅、頼んだぞ」
「ああ、任せてくれ」
短すぎるしばしの別れの挨拶だが、俊也と修羅にとって、言葉はそれだけで充分である。修羅は、親友から何を託されたかをよく理解し、転移の魔法陣を用いて一人カラムの町へ戻る俊也を、神妙な面持ちで見送った。
よく見知った重要拠点に瞬間転移できるというのは非常に便利だ。魔法陣の光と共に、突然、教会のもみの木の下に俊也は現れた。それを分かってはいるものの、サキとセイラはしばらくいじることがなかった花壇の手入れの最中で、気がつくとそこに立っていた俊也を見て仰天している。
「びっくりした~! まだ、お昼前だけど、もう帰ってこられたんですね」
「いくら俊也さんでも、いきなり転移の魔法陣で現れるとびっくりしますね。見かける方の気持ちが分かりました」
加羅藤姉妹は腰を抜かしそうになりながら、それぞれそんな感想を素直に漏らした。
「ごめんごめん。ともかくトラネスでの用は済んだよ。腹が減っちゃたな~、昼ごはんを食べながら話そうか? そんな時間だよね?」
いつも見ている美人姉妹のところへ戻ってきて俊也も安心したのか、とてもマイペースなことを言っている。サキとセイラは可笑しみを感じつつ、彼にご飯をあげるため、一緒に教会へ戻って行った。
「ふむ、そうか。またしばらく皆で食卓を囲めなくなるな。正直なところ寂しいが、仕方がない」
「ソウジさん、申し訳ないです。サキとセイラさんも、また俺についてきてもらっていいかな?」
「里心も落ち着きましたし、勿論行きますよ。どこへでも連れて行って下さい」
「も、もちろん私もよ! 俊也さんとならどこへでも行くわ」
カラムの両親であるソウジとマリアとの貴重な食卓風景だ。再び旅立たなければいけない俊也にとって、次にタナストラスの両親と食事ができるのはいつになるか、そんな感傷を持ちながら、優しい夫婦に大事な二人の娘を再び連れ出す許可をもらっていた。