第百七十六話 無邪気な剣才
「初めまして。僕は矢崎俊也の友人で、千葉修羅と申します。俊也と同じく、剣の道を志しています」
「ふむ、やはりそうか。丁寧な挨拶ができる子だ。私はこの剣術錬成場を取りまとめているイットウサイという者だよ。俊也君に短い期間ながら稽古をつけたこともある」
「あの時は本当にありがとうございました。あの稽古がなければ、今の俺はなかったでしょう」
俊也は剣師イットウサイに、深々と頭を下げ敬意を表している。誰に対しても、俊也はその人の人間性を尊重でき、それがとても大きな長所でもあるのだが、修羅は剣において、ここまでの敬意を率直に表す彼の姿を見たことは今までなく、表情には出さないながらも非常に驚いている。
「イットウサイ先生。お願いがあります。修羅に俺と同じ稽古をつけてくれませんか?」
「ははは! まあそれは、修羅君を見たときからそうだろうと分かっていたよ。快く引き受けよう。というより、この子は私が鍛えなければいけない」
「ありがとうございます! どんな厳しい稽古でもやり遂げます!」
「うむ。そうではあるのだが……少しはっきりとした、修羅君の今の剣気を見ておきたい。君の速さに優れた剣気は今でも感じるのだが、確認をしておかないとな」
この師の足元にもまだ到達できていない。俊也は一目だけで、正確に修羅の剣の特性を見抜いたイットウサイに感服せざるを得なかった。昔から、俊也の剣は修羅より一撃の強さで勝るが、連撃の速さと技術では、今まで戦った剣道の試合において、修羅に勝ったことが一度もない。
「わかりました。どなたかと手合わせということですね?」
「そうだな。私の娘でユリというのがいるのだが、立ち合ってもらおうか」
丁度この錬成場に今、ユリはおらず、イットウサイは自宅で用事を片付けている愛娘を呼ぼうと、弟子の一人に言付けかけたが、
「イットウサイ先生。俺に修羅と立ち合わせてくれませんか?」
と、俊也が自身の剣気を隠さず、ワクワクした表情で提案してきた。
「うむそうか。いや、これは私も非常に興味が持てる立ち合いだな。そうしてみよう」
「ありがとうございます! 修羅! やるのは久しぶりだな!」
「ああ、お前と一緒にラダ討伐をしてた時に思ったんだ。立ち合ってみないといけないとな」
親友であり好敵手である二人の青少年は、ただ、剣の高みに昇りたいという、無邪気ともいえる剣気をお互い発し、まるで大好きな玩具で遊ぶ前の子供のように嬉しそうな顔をそれぞれ見せていた。