第百七十四話 太っ腹なソウジ
歓喜の目に飛び込んできたのは、紫がかった銀色の光沢が非常に美しい、体を守るプロテクターであった。その醸し出す存在感からは、かなりの魔力を持つことも見受けられる。
「これは! 頂いて本当にいいのですか?」
「もちろんだよ。もらって使ってくれないと困る」
遠慮など一つもいらないという太っ腹だ。こういう非常に高価な物の価値を見極め、それを修羅に贈るのが一番良いと即座に判断できるのが、商人ソウジの真骨頂でもある。修羅は、紫銀のプロテクターを早速身につけ、そして、最高の敬意を持ってソウジに一礼した。
「うん。思ったとおりよく似合っている。そのプロテクターは君の身を守る大きな一助になるだろう」
「ありがとうございます! ここまでの物を頂いて、どうお返しをしたらいいか全くわかりませんが」
「ああ、それは考えなくていいんだ。強いて言えば、私が君たちに、何か仕事を頼む時に引き受けてくれたらいい。それだけだ」
「何でもやりますよ。俺はソウジさんにそれだけの恩を受けています」
俊也と修羅、2人の頼もしい青少年の目は大真面目である。ソウジは前途洋々な彼らの意気に微笑ましさを感じると共に、何かしら若干の危うさも同時に覚えた。だがそれは、口には出さず、胸の奥にしまっている。
装備と次の旅に必要と思われるアイテムを揃えたその日も夕方になり、マリアや加羅藤姉妹、それにジェシカが作ってくれた晩餉をおいしく食べた後、それぞれのベッドでぐっすり眠った。教会の夜は月明かりも優しく静かである。
翌日の朝、俊也は実家とも言えるこの教会に戻ってきた、一番大きな目的の仕上げにかかろうとしていた。
「修羅、お前には絶対に会ってもらいたい、ある方がいるんだ」
「へえ、どういうお方だい?」
「ふふふ、今から連れて行くから敢えて言わないよ。一つだけ言っておくと、お前は絶対に大きな影響を受ける。そういうお方だ」
「俊也がそこまで言うとは、とても珍しいな。それほどのお方か……」
修羅はあれこれ考えを巡らせて、その「お方」の人物像を頭に浮かべようとしている。首をひねりながら想像を様々に膨らませている彼の様子を、俊也は得意そうに、そして、ややいたずらっぽく笑みと共に見ていた。丁度、高校生が仲の良い友達に、いたずらを他愛もなく仕掛ける時そのものの表情である。
「よしよし、じゃあ早速行ってみるか」
加羅藤姉妹は、今回ついてこないらしい。俊也が彼女たちの想い人といっても、今は里心が勝っているのだろう。それを理解しない俊也ではないので、修羅とジェシカを連れ、転移の魔法陣に念じ、「あの方」がいる「あの町」へ瞬間転移した。