第百七十三話 とっておきのプレゼント
サキとセイラの教会を再び拠点として俊也たちは活動している。一日一日を大切に無駄なく使おうとする意志は、タナストラスへ来た当初から変わっていない。教会はこれ以上無くゆっくり落ち着ける拠点であり実家であるが、俊也はしっかり計画を立てており、その日なにをするかも概ね決めて行動していた。
「セイクリッドランドとはまた違う、賑やかな町ですね。私はほとんど神殿と大聖堂から出たことがないので、そう感じるのかもしれません」
「そうなのか。それはこれから色んなものを見たらいいよ。この世界は広いと聞いたしね」
カラムの街中を仲良く手をつないで歩いているのは、修羅とジェシカである。俊也もいるのだが、彼は気を利かせているつもりなのか、このカップルに先を譲り、荷物持ちか従者のように後ろを歩いてる。俊也は主役に回るより、こういう役回りに就く方が余程好きなのでかなり楽しそうにも見える。
「修羅、お前はタナストラスに来て何日も経ってないよな。ジェシカさんもそうだけど、歩いている人の髪の色とか驚くことが多いんじゃないか?」
「そうだな。でもそれよりは、言葉が日本語とほとんど一緒というのに驚いたよ。不思議なことがあるもんだよな」
「ああ……俺はあまり考えてなかったけど、そこが一番驚くところかもしれないな。そういえばその通りだ」
サキと初めて会った時に、日本がある世界とタナストラスは表裏一体と言っていたが、そのことを俊也は頭の中で復習している。考えが、その不思議な一致から無限に広がっていきそうで、それをするとキリがなく、眠くなりそうでもあった。
修羅とジェシカにカラムの街で歩いてもらっているのは、この世界に慣れてもらうことと、必要な物をタナストラスの通貨、ソルで買う感覚を掴んでもらう目的があった。年若いながら、俊也は立派なリーダー的資質を持った人間のようだ。ただ図抜けた剣才があるだけではない。
買い物を終え、教会に戻った彼らを一番に出迎えてくれたのは、多少意外なことにソウジであった。この日は生業の商売を雇いの者に任せ、休んで父親としての仕事を家でこなしているようだ。
「ああ、帰ってきたかい。修羅くん、君にあげておきたい物があってね。待っていたよ」
「ありがとうございます。僕にですか? なんだろう? 期待しちゃうな」
「はははっ! いい反応だ。おそらく期待以上の物だよ」
ソウジが修羅を別室に連れていき、彼に見せたとっておきのプレゼントは、修羅にとって遥かに期待を上回る物であり、あまりの歓喜で、それを見る自身の目を疑ったほどだった。