第百七十二話 ゴールデンコンビ
ラダの群れは突然の襲撃に混乱しながら、それぞれが無秩序に俊也たちへ飛びかかる! 俊也はもう、この手の戦闘には慣れたもので、何匹が飛びかかってこようと完全に見切っており、かわしざま、刀による斬撃を急所に次々と加え、あっという間に5匹のラダを片付けてしまった。歴戦のテッサイも、その間に2匹を斬っている。
(俊也はこんなに強くなっていたのか!)
自分に剥き出しの敵意を見せる怪物を斬る経験は日本であるはずもなく、修羅にとっての第一関門である初実戦だが、彼も十年に一人の剣才だ。戸惑いはあったがラダの動きをよく見切り、ディーネから受け取った細身の刀で、的確にラダの急所を突き斬っている。修羅の足元には一匹の妖犬の死骸が横たわっていた。
「よーし! 流石だな! どんどん行くぞ!」
「はい!」
一瞬で8匹の仲間を失ったラダの群れは恐慌している。逃げ出そうとしているものも少なくないが、このラダが巣にしているポイントはカラムとジャールの街道に近く、旅人などが三つ目の妖犬に襲われて被害が出ることもある。慈悲は要らず、根絶やしにしなければいけない。
(この刀は!? まるで僕の手の一部のように馴染む!)
修羅は、もう勘所を完全に掴んでいる。恐慌を起こしている残りのラダの群れへ切り込むと、自分の手へ吸い付くように扱える刀で、次々と妖犬を斬り捨てた! テッサイは、初のモンスター退治とは思えない彼の手並みに驚いていたが、俊也は様子を少し見ただけで当然のことという顔をしている。
「修羅! 刀が軽いだろ!?」
「ああ! これは凄い!」
「その刀とは長い付き合いになるぞ! よし! 仕上げるか!」
俊也と修羅は、ぴったり息を合わせ二手に素早く分かれると、恐れに駆られ、そこからもがくように飛びかかってくる残りのラダを、流麗な剣技で全て仕留めた! 討伐に来たのに、何か芸術的なものを観覧しているような錯覚をテッサイは感じ、しばしその場で様子を呆然として見ている。
「俊也がとんでもなく強くなっていたのにも驚いたが……修羅、お前もすげえな……」
「いや、この刀が凄いだけです。それに……俊也に早く追いつかないといけない」
「すぐ追いつくさ。追いついてもらわないと困る」
討伐を終えた三人の強者たちはガッチリとそれぞれの片腕を上方で組み合わせ、健闘を称え合った。修羅にとって彼の名前通り、剣の修羅となっていく第一歩を踏み出せたことになる。
俊也たちは転移の魔法陣を用い、ラダ討伐を終えたその場を後にした。カラムのギルドが死骸の後始末をするだろう。また、重要な街道の安全が確保されたことになり、三人は素晴らしい仕事を完璧にこなすことができた。