第百七十話 修羅の刀
旅の小さな区切りがついている俊也たち一行は、少しの間、故郷であるカラムの町に留まるつもりだ。隅から隅までよく知っているカラムなら、次の目的が決まるまでの準備がしやすい。
寝心地のいい枕で一晩よく眠った後、俊也は修羅を連れて、朝からディーネの店に向かっていた。とは言っても、ついてきているのは修羅だけではなく、サキとセイラ、それにジェシカもである。目的は修羅のオリジナルウェポンを作ってもらうことだ。
「まあ!! いらっしゃい~、無事に帰ってこれたのね……よかった~」
ディーネはしばらく会えなかった俊也の姿を見るなり、彼女らしくなく薄く涙を浮かべて俊也を抱きしめた。それをサキとセイラは見ていたわけだが、ディーネが本当に俊也のことを心配していたのは分かったので、微妙な気持ちながらも大目に見ている。
「久しぶりでしたね、ディーネさん。約束通り無事に戻りました」
「うんうん、お姉さんは嬉しいわ。今日は何でもしてあげちゃう」
「いえ、この方の武器を作って頂ければそれでいいです」
相変わらずの妖艶さでディーネは「何でもしてあげちゃう」などということを言い始めたので、すかさずサキが釘を鋭く刺してきた。多少、ディーネは面白くない顔になってしまったが、「この方」である修羅を見ると、彼に興味を持ったようだ。
「ふーん、あなたは俊也くんに似た雰囲気があるわね。で、俊也くんが初めに来た時と同じように、木剣を持っていると……」
「はい。僕は俊也の友人で、千葉修羅と言います。俊也とは小さな頃から剣術のライバルでした」
「なるほど。いいわ、あなたも可愛いし面白い子ね。それに俊也くんのお友達ならどうにかしてあげないわけにもいかないし、タダで武器を作ってあげるわ」
俊也の無事を確認でき、その彼が自分の店に顔を見せに来てくれたこともあり、ディーネは上機嫌なのだが、それにしても全くの無料で武器を作成してくれるのはありえないらしく、ずっとカラムに住んできたサキとセイラは、表情に驚きがはっきり表れている。
俊也の刀を作ってくれた魔製器がある部屋は幾分狭いので、俊也と修羅だけが通された。修羅の稽古の念が非常に強くこもった木刀を、ディーネは魔製器に投げ込むと、精製の魔力を送る詠唱を始めた。そして、光と共にできあがったのは、俊也が持つ刀より細身だが、素晴らしい切れ味としなやかさを持つ刀である。
「また面白い物ができたわね~。はい、これがあなたのカタナよ」
俊也が初めて自分の刀を手にした時と同じく、ディーネはしっかりと修羅の手を包み、オリジナルの刀を握らせた。