第十七話 濃密な一日の終わり
「またいつでも来ていいわよ~。うふふ、あなたならいっぱいサービスしてあげる」
俊也オリジナルの刀を手に入れた後、妖しげなディーネから送りの挨拶を受けて俊也とサキは店を出た。
(何のサービスよ! なんなのあの女!)
嫉妬が甚だしいサキは店を出た後もふくれっ面だ。一方の俊也はこれ以上ないくらいしっくり馴染む刀を手に入れることができ、上機嫌なことこの上ない。ディーネが刀を作ってくれた時、同時に鞘も生成されていて、彼は刀を背中にくくりつけて背負いとても嬉しそうに歩いている。
「俊也さん! そんなにあの女が作った剣がいいんですか!? ああ~もう! 腹が立つ~!」
収まりがきかない彼女の様子を見かねて、俊也は自分の方からサキの手を握ってやった。彼の手の平にある竹刀だこの感覚を自分の手の平で感じ取ることができ、サキはようやく少し機嫌を直して落ち着いたようだ。
ギルドの親父と約束した通りギルドにまた戻ってきた頃には、夕方が近づいており陽がかなり傾いていた。俊也にとって異世界で体験する初の夕暮れだ。世界が徐々に不穏になってきているながら、お日様の美しさはこの世界でも変わらないものだった。
モンスター討伐の仕事依頼を正式に受け、幾らかの情報もギルドの親父から得た後、俊也達はサキの教会へまっすぐ歩いて帰った。帰る途中で日もかなり落ちてきている。
新しく手に入れた素晴らしい業物をギルドの親父に見せたとき、
「おお! すげえな! あの木剣がこうなったか。やっぱあの姉ちゃん只者じゃないな」
親父は鋭利な刀という武器へ非常な関心を見せ、しばらく美しい光沢の刀身を眺めていた。そして思い出したように仕事依頼と情報をくれたのだが、昼食時に加羅藤一家と話した通りで、タナストラスが不穏になった原因に関する直接的な情報は入ってこず、得られたそれはカラムの町の主要産業や店、町の近くにあるモンスターの群生地に関することが主だった。ただ、二つほどこれから有意義になるであろう情報も得られている。カラムの町周りの地図と、この町の町長と仕事の成功後、連絡をつけ面会させてやるというものだ。
サキはカラムの町を出て俊也を日本へ探しに行く時に、町での知り合いの何人かへそのことを伝えているが、町の規模はそれほど大きくないとはいえ交易で栄えており、住んでいる人々の人数は100や200ではない。そのため、彼女が救世主を異世界へ探しに行っているという話は広まっていないようである。だから、ギルドの親父が俊也を初めて見た時の反応も鈍かったのだ。俊也は現時点では無名で救世主としても認識されていない。しかしながら、今はこの方が都合が良いかもしれない。
異世界タナストラスへ来た初日で濃密すぎる一日であった。俊也は教会に帰り晩御飯を頂いた後、自室のベッドで泥のように熟睡してしまった。