第百六十九話 無事によく帰った
「おお!? 帰ってきてたのか! ということは、転移の魔法陣を直せたんだな。いやー、無事によく帰ってきてくれたな」
「「お父さん!」」
食卓の席に座っていたサキとセイラが、変わらぬ優しい目の父に歩み寄り、また嬉し涙を目にたたえて抱擁を交わしている。その光景を見て、やはり俊也は強い安堵感を覚え、心のつっかえが軽くなった。
「無事に帰ってくると思っていたぞ。俊也くんが守ってくれているんだからな」
「ええ。ずっと守ってくれてたわ」
「そうよ。無事に戻れたのは俊也さんのおかげよ」
俊也は、長旅の協力者としてサキとセイラをこの家から連れ出したのと同様のことを、自分がしてしまったと思っている。その加羅藤親子にそんなに感謝されると、心中複雑なものがあった。
「ありがとう俊也くん。そして、よく帰ってきた」
「いえ、俺こそサキとセイラさんにずっと助けてもらっていました。なんとか2人と一緒に無事帰れて良かったです」
「君は相変わらず真面目だな。それはそうと……新しい客人が来てくれているが、君が出会えた仲間かな?」
修羅とジェシカのことをソウジは見ているのだが、ソウジは色んな人物相をしっかりと感得し、商売に長年活かしてきた人である。2人を見て、すぐにただの青少年少女でないのは感づいている。
「僕は千葉修羅と申します。俊也がいた世界から来ました。それに、俊也の幼馴染で友人です」
「私はジェシカです。もう一人の救世主である、修羅さんをタナストラスへ導きました。この旅に同行させて頂いています」
「ほう!! 俊也くんの他にもう一人救世主様がいらっしゃったとは! しかも、俊也くんの友達……いやー、これは縁というより何かもっと強いものだろうな!」
ソウジは何事にも動じない胆力を持った商人であるが、修羅とジェシカの話には、非常に驚きもし、興奮も隠さずにいる。何よりも、俊也の友人がこの世界を救う可能性を持つ、もう一人の救世主であることが、素晴らしく心強かった。
実家に帰ってきたその日の一行はゆっくりと過ごし、カラムの町の空気を懐かしんだ。晩餉はマリアが心づくしのご馳走を作ってくれ、心と身体に沁みるおふくろの味に舌鼓を打ったようだ。誠実で落ち着いた修羅は、ソウジとマリアに俊也との交友関係や剣道のライバルであることなどを話している内に、とても気に入られ、この家の空き部屋を自室として与えてもらった。
寂しく夫婦二人でいた広い家が、一気に賑やかになり、ソウジとマリアの笑顔は絶えることがない。