第百六十六話 一区切りとこれから
「すごいな。これがタナストラスという世界か」
「ああ、すごいものが幾らでも出てくるぞ」
修羅が初めて見る異世界の外景色は生憎の雨だが、霞がかったセイクリッドランド大聖堂の荘厳さは、タナストラスを歩み始めようとしている彼の心を奮わせるのに充分であった。この世界の神秘性を、修羅も自分自身が持つ救世主としての適性から感覚で覚えており、素直な感動と驚嘆を顔に表している。異世界転移の先輩である俊也は、それを見て何となく得意そうだった。
これからは5人でタナストラス救済活動を続けることになる。旅にジェシカも同行することになったのだ。白銀の宝玉に導かれた千葉修羅を、彼女は日本からこの世界へ無事連れて来られた。それ故、ジェシカの使命はもう一人の救世主となる修羅を、これからよくサポートしていくことに変わっている。セイクリッドランドにジェシカがこれ以上留まる理由はもうない。
「俊也さん、修羅さん、セイラさん、サキさん、これから宜しくお願いします。私は聖なる光の魔法に長けています。お役に立てると思います」
何時も通り表情を変えることなく淡々と彼女は話している。この銀髪の美少女の持つ魔力はただ事ではない。癒やしの魔法に長けているセイラとサキは、会ったときから第六感的に肌で感じ取っていた。非常に心強い仲間ができたのだが、戦いの時、俊也に直接の支援をすることができなかった加羅藤姉妹は、多少の無力感を身につまされ、少しだけ晴れきれない感情も、この心強く新しい仲間に対し、歓迎しながら浮かんでいる。
新たな2人の仲間を得た一行は、その日、セイクリッドランドでも有名なレストランで歓迎会を行った。俊也と修羅の幼い頃からのつながりや、ミステリアスなジェシカはどういった女の子であるかなど、降っている雨が夜半に止むまでコミュニケーションを食事をしながら楽しんでいる。そして宿に泊まり、修羅は大いなる旅の始まりとなる異世界二日目の朝を迎えた。
朝日に映える大聖堂の重厚な荘厳さに、また修羅は感動しているが、そうしてばかりもいられない。タナストラスには観光に来たわけではないのだ。
「どうかな。レオン法王の依頼が終わって一区切りついたし、一度、カラムに戻ろうと思うんだ。転移の魔法陣もミハエルさんに直してもらった。それに、修羅の装備を整えたい。帰る状況は揃っているよね?」
俊也は旅慣れてきて、すっかりリーダー的資質が身についてきている。セイラとサキは、想い人がたくましくなっていることと、カラムに帰れるのが嬉しく、花が両輪に咲いたような笑顔である。正直なところ長旅が続き、彼女たちには里心がついていたのだ。