第百六十五話 二人の救世主
公園の片隅の隅にある目立たない場所からジェシカは日本に現れたようだ。今、彼女はその場所に修羅を連れてきており、白銀の宝玉で歪を開けば、すぐタナストラスへ戻ることができる。修羅は俊也からの言伝通り木刀を携えて来ており、適当で邪魔にならない七分袖の服を着ていた。
「修羅さん。タナストラスでは長い旅になると思います。本当に来ていただけますか?」
ジェシカは念を押している。感情が表に出ない彼女も、修羅と修羅の両親との温かいつながりの強さは充分わかっていた。タナストラスを救ってもらいたい気持ちは強いが、そのつながりを無理に引き離す後ろめたさのようなものがジェシカにはある。
「俊也は僕の最大の親友でもあり、ライバルでもあり、幼馴染でもあるんだ。そいつが待っているんだから行かないわけにはいかないよ」
修羅の剣道で鍛え上げた意志は強い。肚づもりはもうしっかり決まっていた。
「承知いたしました。それでは参りましょう」
彼の力強い言葉を聞き、ジェシカは少し微笑みを浮かべた。目立たなく慎ましく咲く露草の花のような美しい笑顔である。そして、彼女は白銀の宝玉を取り出し神聖な詠唱を始め、日本とタナストラスを結ぶ歪を作り出した。
修羅とジェシカの体は亜空間を漂い、タナストラスへ向かっていく……
「わわっ!?」
「きゃっ!?」
驚きの声を上げているのは俊也とサキである。それはそうだ。白銀の宝玉の空間と時間を記憶する効力により、彼らから見ると、修羅とジェシカが一瞬で歪から行って帰ってきたように見えるからだ。
「俊也? 本当に俊也なんだな?」
「修羅? よく来てくれたな! はははっ! 本当によく来た!」
俊也は、何よりも心強い幼馴染の剣友の姿を眼に映し、うれし涙の笑顔を浮かべながら、修羅の手を固くしっかり握った。
(間違いじゃなかったな。来てよかった)
修羅は何年も見知った、親友でもライバルでもある俊也のその顔を見ただけで、そう信じられる確かさを感じ取っている。
もう一人の救世主、千葉修羅を迎え入れた後、俊也たち一行の姿は再び大聖堂に見受けられる。レオン法王と謁見し、タナストラスを救うであろう頼もしい剣士が二人揃ったことを彼らは報告した。
「二人ともよい顔をしておる。俊也さん、あなたの力が先ほどより数倍強くなったように見えるぞ。あなたたちが力を合わせれば、固き困難も打ち砕けよう」
紅顔残る二人の救世主は、これから立ち向かっていく長く厳しい旅に対して、今、気持ちも表情も清々しい。