第百六十三話 早とちりな両親
眼が変わり、話しを聞く気になったといっても、修羅が感じる疑念はまだ尽きない。ともかく、道端で他の人に聞かれながら話す内容でないことは気づけたので、彼は一旦引き返し、ジェシカを連れて千葉家へ戻ることにした。
修羅の家はいわゆる旧家で、一部屋の間取りが広く、和室が多い。そして、誰が見てもミステリアスな印象を持ってしまう銀髪の美少女ジェシカを家に連れて来た時、彼の両親の反応は、
「おお!? いやいや、いらっしゃい。これはまた……」
「あら!? 可愛らしい子ね。いらっしゃい」
と、かなり驚きはしたが彼女を歓迎してくれている。修羅の両親も俊也の両親と同様、理解が広い親であるようだ。そして何より、堅物な息子がこんな美少女を家に連れてきたということが、とても意外でかなり嬉しいらしい。この点も俊也の両親と似ている。
修羅の父と母はジェシカを家に上げたのはいいが、途端にそわそわして忙しくもてなす準備をし始めた。どうも彼の両親は早とちりしがちなようで、見合いの準備並みの上等な菓子とお茶を用意したり、客間に良い座布団を敷いたりしている。それを見て、修羅は「いや、違うんだ」と、両親に言いかけたが、気ぜわしいながらも喜々としてジェシカをもてなそうとしているのを、止めることはできなかった。
「お菓子は遠慮せず食べてね。お名前を伺ってもいいかしら?」
「はい、ありがとうございます。私はジェシカと申します」
「ジェシカさんか……。(ハーフかクォーターなのかな?)私が修羅の父です。息子と仲良くしてやって下さい」
「はい。修羅さんのことはお慕いしております」
「「「ええっ!?」」」
修羅と彼の両親は仰天した。感情が表に出ず無表情なジェシカであるが、やはりタナストラスの女性らしく、男性に対するアプローチは意外に積極的なようだ。彼女は神竜の巫女でもあり、白銀の宝玉によって出会うことを運命づけられた修羅に対して、雛が親鳥を見た時の刷り込み的に、そのようなことを言っているのかもしれないが。
「そ、そうか。そうだったのか。修羅、お前は堅いやつだと思っていたが、やることをやっていたんだな」
「いやいやいや! 違うんだよ父さん!」
「いいのよ。お母さんも心配していたけど嬉しいわ~。ああよかった」
早とちりしすぎている修羅の両親は、もうジェシカが嫁に来てくれたように喜んでいる。ジェシカはどういうことなのか今の状況を理解できず、可愛らしく小首をかしげているが、修羅は顔を真っ赤にして、この場をどう収めたものか、頭を抱え考えあぐねていた。