第百六十二話 銀髪の美少女
稽古後、修羅はご飯と味噌汁、納豆といった、純和風の朝食を頂いた。もちろん、彼の父と母と食卓を一緒に囲んでいる。食後、彼は自室で少しゆっくりした後、考えていた通り近くを散歩することにした。
修羅が住んでいる地域は都市部から比べるとやや郊外で、自然が多く残っている。今は初夏であり、少し足を伸ばせば花菖蒲や藤棚があるところを歩いて鑑賞できる。穏やかで環境が良いところだ。ゆっくりとそういった景色を楽しみながら彼は歩き、スマートフォンで花の写真を撮ったりもしていたが、とある場所で、どう見ても見慣れない不思議でミステリアスな美少女を目の当たりにした。
(銀髪? だよな……?)
まずその美少女の髪色が見紛いかと修羅には思われ信じられず、3度見したほどだ。彼も俊也と同様、ファンタジー小説などを読むのが好きだが、その中でしかいないだろうと考えていた銀髪の美少女が、すぐ近くにいるのだ。
あまりに現実感のないミステリアスなものを見つけてしまったので、修羅はその場に立ち止まっている。銀髪の美少女は彼の様子をしばらくじっと見ていたが、ちょこんと座っていた道端の低いブロック塀からスッと立ち、歩いてこちらにやってきた。そして、修羅の顔を無表情でまたじっと見ている。見られている彼は、なんだか少しばかり可笑しみすら感じ始めていた。
唐突に銀髪の美少女は、思春期が終わったくらいの年頃の修羅にとって、非常にドキッとするような仕草を見せる。適度にふっくらとした彼女の胸元から、白銀の宝玉がはめこまれたブローチを取り出したのである。それは七色に輝いていた。彼女は白銀の宝玉を修羅に近づけると、七色の輝きは非常に力強いものに変化した。
「あなたは千葉修羅さんですか?」
「えっ!? そうだけど……?」
歳と不相応に落ち着いた修羅であるが、眼の前で起こっていることに理解が追いつかず、さらに、面識がないミステリアスな美少女が、自分の名前を口にしたことにより、幾らかの怖れを抱いている。感情が薄いこの美少女は、ようやくそのことに気付いたらしく、まず自分が何者であるかを説明し始めた。
「私はジェシカと申します。信じ難いと思われますが、この世界とは異なる世界、タナストラスから来ました」
「異世界!? ということだよね? うーん、それを信じろと言われても……」
「はい。この方の名前を言えば信じて頂けるのではないかと思います。矢崎俊也さんという方をご存知ですか? 今、タナストラスを救う旅をなさっています」
「俊也が!?」
あまりの面妖さに、この場を去ろうかと考えてもいた修羅だったが、考えてもいなかった親友の名が出てきたことにより、彼の眼は一変した。