第百六十話 あいつしかいない
「ここはセイクリッドランドで一番ネフィラス様を近くに感じることができる場所ですが、あなた方にはその守護が強く備わっているようです」
「神竜ネフィラスが守ってくれていると?」
「はい、あなた方が今の旅に出ているのも、ネフィラス様のお導きかもしれません」
ジェシカによると、俊也たちの行動自体が運命的なものということになる。彼女は神竜の巫女であり、説得力があるが、それでも俊也たちはまだ、自分たちの旅がそれほどの導きによるものとは思えなかった。
「そうなのかな。ところでジェシカさん、俺たちをこの神殿に連れてきてくれたのには、他にも理由があるんだよね?」
「はい。俊也さんから返して頂けた、白銀の宝玉についてです。あなたと同じくもう一人、タナストラスを救って下さる英雄となられる方がどこにいらっしゃるかが分かりました」
「本当ですか、その人はどこに?」
「俊也さんが来られた同じ世界です。そして、あなたと同じ国の方で、あなたが暮らしておられた地域から近い処にいらっしゃいます。ここまでは、はっきりと分かりました」
「それは……。日本ということだよね? しかも近くということは……」
俊也の表情が、確信と期待、少しの疑念が入り混じった、複雑なものにすっかり変わっている。少しの間、考えをまとめていたようだが、果断な彼はあることを決め、眼の前の神竜の巫女にこう伝えた。
「ジェシカさん。その人をあなたが連れてくるつもりなんだね?」
「はい。俊也さんたちにお伝えできたので、すぐにでも白銀の宝玉を用いて行くつもりです」
「なるほど、分かった。おそらくそいつは俺の親友だろう。もし、そのもう一人の救世主が千葉修羅と名乗ったら、『矢崎俊也が異世界で待っている、木刀を持って来てくれ』と伝えてほしい」
「? 分かりました。そうであれば必ずお伝えします」
無表情ながら少し怪訝な顔で可愛らしくジェシカは小首をかしげたが、俊也の言葉の真意が分かってきたようで、そう返事をした。
「では、行ってまいります」
「えっ!? もうここで!?」
「はい。この神殿から異世界へ歪を開くことができます。俊也さんたちから見ると白銀の宝玉の力で、私が一瞬で救世主様を連れてきたように見えるでしょう」
冷静なのか、運命に導かれたものと捉えているのか、ジェシカは何も迷いなく異世界への歪を開く詠唱を始めている。そして、白銀の宝玉が七色に光り、力を示すと、彼女は異世界へ通じる亜空間へ身を任せるように吸い込まれて行った。