第十六話 手に入れたオリジナルウェポン
所有者の精神的な念などを色濃く受けた物を、別の何かへ大幅にバージョンアップして変化させるのが、魔製器の役割らしい。何年も厳しい剣道の鍛錬を共にしてきた俊也の木刀にも、彼の強い念が宿っていたのだろう。
その魔製器はディーネの店に入ってすぐの部屋にはなく、別室にあるらしい。その部屋への扉を開き、ディーネは俊也とサキへ来るように手招きしている。彼女についていくと透明な液体に満たされた、大人が横たわった位の大きさがある水槽のような物に、魔力が込められていそうな金属製の部品が、やや複雑に組み合わされ取り付けられた装置が置いてあった。
「これが魔製器よ。この水槽の中にあなたの木剣をドボンと入れて、私が詠唱して生み出した後の魔力をここから送ると、それをきっかけとして木剣が変化して別の武器になるわ。どういう変化をするかは、私にも分からないけど」
そこまで詳しく俊也達に説明し、
「どう? やってみる?」
と、彼に試してみるかどうか、再度訊いている。
「はい。お願いします。100ソル銀貨を払います」
俊也は決めるとすぐに、さっきギルドでもらった報奨金の銀貨をディーネに手渡した。彼女はわざと俊也の手を両手で艶かしく撫でるようにした後、銀貨を1枚受け取り、
「商談成立ね。じゃあいい感じにしてあげる。うふふ」
怪しく艶のある笑顔を彼に向け、魔製器を使った加工に取り掛かった。サキはディーネが俊也に振りまく色香が気になり、嫉妬と嫌悪がないまぜになったような顔をして機嫌がすこぶる悪い。
(余計なことしないでさっさとやりなさいよ!)
思っていることが全部顔に出てしまっているが、大人の女の余裕なのか、サキの様子をちらっと見ただけで意に介さず、ディーネは木刀を魔製器の中へ入れると、大きな黒水晶が先端に付いているワンドを持って詠唱を始めた。妖しく黒水晶は光り輝くと注入口を通り木刀に魔力が送られ、それは青色に少しの間発光し、鋭利な刃を持った刀に変化した。
「へぇ~、こんな形の剣初めて見たわ。これならランドタートルの甲羅でもすんなり斬れそうね」
ディーネは出来上がった刀を取り出し、俊也に「はい、これがあなたの新しい武器よ」と、また彼の手をゆっくりわざと握って手渡している。傍らにいるサキのイラつきは見ていられないほどだ。
「これは! 刀なのに木刀より軽く俺の手に馴染んでいる……すごいぞ!」
「ああ、これ刀っていうの? あなたの念をこの刀は木剣から引き継いで持っているから、あなたが今よりもっと強くなったらこれも何かまた変化するかもね」
タナストラスに来なければ出会うことがなかった自分だけの刀を持ち俊也は非常な感動を覚えている。しかも彼の成長の段階によっては、それはまた強いものに変化する可能性を持つようだ。