第百五十八話 よく成し遂げてくれた
翌日は朝から雨模様だったが、俊也たちは傘を使い、レオン法王が首を長くして待つ雨霧に霞む大聖堂へ向かっている。
「無事帰って来られたか。それにしても随分早く帰られたんじゃな。1ヶ月ほどはかかると見ておったんじゃが」
「移動が貸してもらっている魔法のロッジのおかげで順調でした。それに、瘴気濃き地で素晴らしい協力者に出会えたのも非常に幸運でした。その協力者にこの転移の魔法陣を直してもらえて、とても早くセイクリッドランドへ帰れましたね。魔法陣を使えば一瞬でしたよ」
「ほう! 俊也さんはそんな便利な物も持っていたんじゃな。タナストラスは広いが、その魔法陣を使えば隅から隅まで巡ることになるとしても、可能かもしれんな」
俊也たち三人はレオン法王と謁見していた。法王は彼らが無事帰還したことを非常に喜び、早期に帰られた主な要因である転移の魔法陣を俊也から渡してもらい、物珍しそうにしげしげとそれを見ている。どうやら、レオン法王は珍品全般にとても興味があるらしく、コレクター気質があるようだ。
「むう……これは素晴らしい物じゃな。ずっと見ていたら欲しくなってしまう。俊也さんに返そう。本題に戻すとするか。瘴気濃き地の調査結果を報告して欲しい」
「はい。写真にした転写の紙5枚を、お受け取り下さい。瘴気の源泉を中心に写しました」
「おお、これは。このようなことになっておったのじゃな」
いつも穏やかな表情であるレオン法王の顔が、写真5枚を何度も見返すうちに、真剣でやや険しさを含むものに変わっている。傍にいる近衛兵も、法王のこのような表情はほとんど見たことがないらしく、冷静に守衛任務をこなそうとする中で驚きを隠せていなかった。
「ミハエルさんというとても大きな魔力を持つ魔導師の方が協力者だったんですが、その方に聖浄のトーチという聖なる灯火を手に持ち保てる道具を頂きました。その灯火で瘴気濃き迷路を掻い潜り、源泉を守っていたアイスドラゴンをかろうじて倒しました」
「なるほど。やはり大変な苦労だったのじゃな。いや、依頼を成し遂げてくれてありがとう。約束通り残りの5000ソルと聖騎士の称号を俊也さんに贈ろう。これは君にこそ相応しい称号じゃ」
法王は穏やかな表情に戻り、俊也たちの労をねぎらうと、側近にやや小さな声で伝えた。少し経ち、立派な宝台とでも言うのだろうか、それに5000ソルが包まれた上質紙と、聖騎士の称号の証であろう、神竜ネフィラスと聖十字を合わせた装飾があるブレスレットが載っている。そして、それらを持ってきたのは神竜の巫女ジェシカであった。