第百五十七話 また会えるさ
北の辺境テレミラの夕日がもうすぐ落ちようとしている。ミハエルは「もう一晩、泊まっていったらどうだい?」と、勧めてくれたのだが、俊也はなるべく早くレオン法王に依頼達成の報告をしたいと思い、先を少し急ぐことにした。勿論、魔力を取り戻した転移の魔法陣を使うのである。
「いよいよ帰るか。しばらく会えないだろうな。寂しくなるな」
「助けてくれたり遊んでくれたり楽しかったよ! 絶対にまた来てね」
少しリズは気持ちが沈んでいたが、ここで俊也たちと別れることになる。笑顔で彼らを送り出そうと寂しさを顔に出さず、いつもの元気さが表れた表情でミハエルと見送りに出ていた。
「リズ、ミハエルさん。本当にありがとうございました。必ずまた伺います」
「うん、いつでも来なさい。その転移の魔法陣の魔力は完全に回復している。半永久的に使えると思っていい。それを使ってまた会いに来なさい」
「はい、必ず」
縁深くなった2人のエルフとの名残は尽きない。俊也は頃合いを見て転移の魔法陣へ手をかざし、セイクリッドランドの町並みをイメージした。すると、回り続けていた小さな魔法陣が小箱から浮き上がり、俊也とサキ、セイラが立っている大地へ、その大きさを拡大しながら降りて行く。大地に降りた大きな魔法陣は青色の光を天へ放った後、俊也たちをセイクリッドランドへ瞬間転移させた。
「行っちゃった……」
「なあに、また会えるさ」
俊也たちがいなくなった低草で覆われている大地を、リズは悲しそうに眺めている。そんな彼女の肩に優しく手を置き、ミハエルは一緒に過ごした彼らとの不思議な縁をしばらく考えるのだった。
セイクリッドランドの少し外れにある杉の木の下に、俊也たちは気がつけば立っていた。三人ともしばらく、起こったことが信じられずキョトンとしているが、
「これは……間違いなくセイクリッドランドに帰っていますね」
比較的いつも冷静で落ち着いているセイラが、距離を置いて見覚えのある町並みが広がっているのを視認した。一瞬で聖都セイクリッドランドへ帰れたのである。
「そうね、この辺りも通ったことがあるし……町外れで人がいなかったからいいけど、誰か見てたら絶対びっくりしたわね。ところで俊也さん。もう夜が近いから今日は宿に泊まりませんか?」
「うん、そうしよう。さすがにレオン法王への報告は、明日の朝でいいだろう」
転移の魔法陣で帰ったので、予定より大幅過ぎるくらいの早さで聖都へ帰還できた。日が暮れた今日中に法王との謁見を急ぐ必要は、サキの言う通りない。一行は、懐かしさすら感じる暖かい聖都の夕暮れ道を歩き、中心街にある宿へ向かった。