第百五十六話 ゆかりの物
「ミハエルさんが作った赤水晶のワンドを買いました。これからの旅が楽になりそうです」
「ああ、あれを買ってきたのか。私が作って渡してもよかったんだが、テレミラも金がいくらかないと保てないからね。よろず屋で買ってくれたのなら助かるよ」
「はい。何でもタダでというわけにはいきませんから」
俊也とミハエルの会話は、どちらも筋が通っている。双方が阿吽の呼吸で返しているように思えたようで、二人とも爽やかな可笑しみを感じ、笑った。紅茶と少しばかりの菓子をみんなでつまんでいるその場の空気は和やかだ。
「さてと、話していたら話も尽きない。転移の魔法陣の使い方を教えておこう」
「お願いします。聞き漏らさないようにします」
「うん、よく聞いておいてくれ。と言っても、使い方自体はそんなに複雑なものではない。君たちが行ったことのある町や村の名前をまず全部言ってみてくれ」
「ええっと……。カラム、ジャール、トラネス、マズロカ、ライネル、セイクリッドランド、それにテレミラです」
記憶をたどり、指を折って数えながら、俊也はここまでの旅で立ち寄った全ての村町名をミハエルに伝えた。まだタナストラス救済の旅が本格的に始まったばかりだが、様々な拠点を訪れたものである。
「うむ、いいだろう。それでだ、小さなちょっとした物でいい。それぞれの町と村で手に入れた、その土地ゆかりの物を持っていないか?」
「そうですね……。ちょっと魔法のリュックの中を、サキとセイラさんと一緒に探してみます」
ゆかりの物をどうするのかはまだ分からないが、荷物の中にそれらがないことはない。ただ、どれがどういう物だったか、俊也だけで思い出すとおぼつかないので、加羅藤姉妹と相談して探す必要があった。
「探せました。これで全部ですね。でも、布の切れ端のような大したことがない物もあるんですが、これでいいんですか?」
「ああ、上々だよ。じゃあそれらを回転してる小さな魔法陣の下に小さな台座があるだろ? そこに置いてみてくれ」
ミハエルの指示通り、俊也はそれぞれの土地ゆかりの物を小さな台座に全て置く。すると、それらは青く光り輝いたかと思うと、少し上で回転している小さな魔法陣に吸い込まれてしまった。
「ええっ!? ミハエルさん!? これはどうなったんですか?」
「これで大方準備は終わったよ。土地ゆかりの物を吸い込んで、魔法陣が転移先の村や町の場所を記憶したんだ。後は君たちの誰かが魔法陣に手をかざし、行き先をイメージすれば使える」
こんな便利な物はない。俊也はいわゆる、SF映画などでよく出てくるテレポートを思い浮かべた。実際にそれが自由に使えるようになったのが、俊也と加羅藤姉妹にはまだ信じられないようだ。