第百五十五話 赤水晶のワンド
小さな店内だが、俊也たちの興味を強くひいた品がある。先端に赤水晶がついたワンドがそれだ。
「これはもしかして、ミハエルさんが作った物ですか?」
「ああそうだ。ミハエルはうちの店に、こういった魔力がこもった物をたまに納めてくれているんだ」
「うん。だから俊也兄ちゃんたちを案内したんだよ」
店主の親父が言う通り、ワンド全体から相当な魔力が感じられる。赤水晶以外の部分は木でできているのだが、使われているのは聖浄のトーチと同じ、アガスティアとミハエルが呼んでいた特殊な木のようだ。
「リズちゃん、このワンドはどういう風に使うものなの?」
「これはね。例えばサキ姉ちゃんがキュアヒールの魔法を使うでしょ? その時にこのワンドを通して使うと、あまり疲れなくて済むんだよ。疲れ方がそうだね~、10分の1くらいで済むんじゃないかな」
「10分の1!? そんなに効果があるの!?」
「そうだよ。それに、使った魔法自体の効果も増えるよ」
傍でリズの説明を聞いていて、俊也は赤水晶のワンドが是が非でも欲しくなった。彼が買い物好きなのもあるが、それにしても有用なアイテムであり、購入したくもなるだろう。
「親父さん! これはいくらで買えますか!」
「リズが説明したように結構な代物だ。3000ソルだが、お前さんはミハエルの客だし2500ソルに負けてやろう」
「分かりました。2本下さい」
「なに!? 2本かよ!? こんな高い物を……お前さん、思い切ったやつだな。気に入ったぜ! 2本まとめ買いするなら合わせて4000ソルにしてやろう」
「ありがとうございます!」
金を使う時は惜しまない俊也のきっぷの良さが功を奏したようだ。8枚の500ソル金貨を確かに支払うと、店主は赤水晶のワンドを彼に手渡した。
リズの案内でテレミラの良いところをしっかり楽しめた。楽しい時間は早く経つもので、夕方近くなってきている。今日も傾いてきたおひさまが照らす村の田舎道を歩き、俊也たちはミハエルの家に戻ろうとしていた。そろそろ転移の魔法陣が直っている頃だろう。
「帰ってきたかい。ちょうどさっき直ったところだよ」
「ありがとうございます、何から何まで……。なるほど、小さな魔法陣の回転が速くなってますね」
「そうさ。それが直った証拠だよ。使い方は後で説明するとして、まず一緒にお茶を飲もう。これで君たちとしばらくお茶が飲めなくなるな」
少し寂しそうに笑いながら、ミハエルはケトルで湯を沸かし始めた。リズも、俊也たちとの別れが来るのを彼らとの楽しい時間で忘れていたが、らしくない、少し沈んだ顔を見せている。