第百五十四話 レッドコスモス
遅い朝食をご馳走になった後、俊也たちはテレミラ村を散策している。瘴気の源泉を調べることに気が行っていたので、非常にひなびた長閑な辺境の村を楽しむことは、俊也たち一行の頭に今まで浮かばなかった。
「この赤い花きれいでしょ。レッドコスモスって言うんだよ。この辺りでしか咲かない花だよ」
「わあ~! いっぱい綺麗に咲いてるわね~!」
「本当ね。綺麗な一面の赤だわ」
リズが先頭に立って、俊也たちをテレミラの名所に案内してくれている最中である。元気な彼女は幼い頃から村の中を走り回っていたのだろう。テレミラの隅から隅まで知っているようで、この野原一面に広がるレッドコスモスの鮮やかな赤も、彼女が昔から知っている自慢の遊び場なのだ。サキもセイラも花を好む。鮮やかな一面の赤の美しさに感動し、二人共とても喜んでいた。
「綺麗でしょ。私はここでこうするのが大好きなんだ~」
リズは小さな体を一面のレッドコスモスの中に投げ出し、仰向けに寝そべり始めた。金髪のチャーミングな小顔の目を閉じ、辺りの心地よい空気をゆっくり吸い込んでいる。とても気持ちが良さそうでもあり、リズと一面の鮮やかな赤は、そのまま一枚の柔らかく華やかな絵画のようだ。
俊也たちもリズに倣い、レッドコスモスの中で寝そべってみた。北の大地ながら、昼の陽光は充分暖かく、澄み切った青空に高く浮かぶ雲を眺めていると、俊也はここまでの苦労を忘れてしまいそうになるほどである。サキとセイラは大地の柔らかさにウトウトとまどろみかけている。その様子も優しく美しい絵のようであった。
(俺は考えすぎているんだな)
タナストラスの自然の大きさから自分を見つめていると、俊也はそう思い直せてならない。自身を洗うことができたような気がする。それを彼は心にしっかりと感じていた。
次にリズが案内してくれたのは、この辺境の村にあるよろず屋であった。この店は俊也たちも、村に来た時から気になっていた。
「おじさんこんにちは! お客さんを連れてきたよ!」
「おう! リズちゃんか。ああ、あんたらが噂のミハエルの客人だな。滅多によそから旅人が来ないから、村でも話の種になってるぜ」
「そうだったんですか。リズもミハエルさんも、とても親切な方ですね。テレミラに来てよかったです」
「そうかそうか! そう言ってくれて俺も嬉しいや! お前さんはミハエルの客だし、何か買ってくれるなら負けてやるよ。品物を見てみてくれ」
気さくで気のいいよろず屋の親父は、俊也たちに小ぢんまりとした店内の品物を見せ始めている。