第百五十三話 テレミラで遊ぶ
泥のように疲れ切った体を熟睡させた俊也たちは、窓から差し込む昼前の暖かい陽の光を感じ取り、それぞれ目を覚ました。体力、気力、魔力共にすっかり回復しているが、深い眠りを朝の早い内に覚ますことは難しかったらしい。
北の地域の秋とはいえ、昼前ともなれば寒くもなく過ごしやすい気候である。俊也、サキ、セイラは熟睡により、すっかりスッキリした顔をしている。それぞれ健康に空腹であり、食欲もあった。遅い朝ごはんを摂らせてもらうため、居間に移動する。
「おはよう! よく寝たね~! 私もちょっと前に起きたんだよ」
「おはよう。昨日は大変だったのに、リズは変わらず元気だな」
「へへっ! 私はいつでも元気だよ!」
リズの快活さを見ていると、みんなが元気になりそうだ。俊也は、明るい笑顔を絶やさない彼女の朗らかな性格をとても好ましく思い、そう感じている。
「心身とも回復したようだね。若いというのはいいものだ」
徹夜で転移の魔法陣を直してくれているミハエルが少し手を止めて、起きてきた俊也たちの様子を見に来ていた。魔力をアイテムに注入する作業を夜通し行っていたはずだが、別段、ミハエルに疲労の色は表れていない。それだけ彼の持つ魔力が非常な大きさであるということだろう。
「ミハエルさん、本当にありがとうございます。一睡もされていないでしょう……。申し訳ないです」
「謝らないでくれ。これでも君への大きな借りは返せていないつもりだ。それに、転移の魔法陣を久しぶりに見て懐かしくてね。直すのに気合が入って中々楽しいよ」
「ミハエルさんにとっても、思い入れがある作品なんですね。転移の魔法陣は」
「その通りだ。それで、かなり魔法陣の魔力が復活してはきたんだが、まだ夕方近くまで時間がかかるだろう。俊也君たちの旅が急ぐものかどうか、聞いてはいなかったな。まあどちらにしろ、テレミラの村内を見物しながら待っていなさい」
「わかりました。今はそこまで急いでいる旅ではありません。村の中で少し遊んできます」
俊也の「遊んでくる」という言葉が、ミハエルには嬉しく受け取られた。昨夜の思いつめた俊也の顔が、人生の大先輩として彼には気になっていたのだ。この子は辛い気持ちも切り替えられる強さを持っている、それを確信できたミハエルは大きく安心感を抱けていた。
「遊びに行くなら私も連れて行って!」
「本当にリズちゃんは元気ね」
天真爛漫で否応なしについて行こうとするリズを見て、セイラは、新しい快活な妹ができたような不思議なここでの縁と親しみに微笑んでいる。