第百五十話 無事と責任
「ただいま~、凄いところだったよ! 大変だったけど面白かった」
「面白かったで済んだからいいが……まあ無事に戻ったから良しとするか。俊也君、リズを守ってくれてありがとう。また君に大きな借りができたな」
「いや、借りができたのは俺の方です。リズがいなければアイスドラゴンに勝てませんでした」
リズの保護者であるミハエルは、この鉄砲玉娘が飛び出すように俊也と行ってしまっていたので、この時間まで何も手がつかなかったようだ。いつ帰ってくるかと、昼下がり頃からずっと自宅の周りをウロウロしていたらしい。瘴気の源泉で強敵に遭遇し苦戦を強いられたが、順調に夕方までに帰って来ている俊也たちを見たミハエルの安堵は一入のものがある。
「アイスドラゴンか。瘴気の源泉には凄いモンスターがいるという噂はあったが本当だったんだな。ともかく無事に帰ってきてくれて良かった。家に入って休みなさい。温かい飲み物を淹れよう」
「ありがとうございます。正直ヘトヘトです……」
夕日が落ちかけた北方の村テレミラに、また寒く静かな秋の夜が訪れようとしている。非常に危険な調査を無事に終え、温かい紅茶を飲みながらレンガ造りの家で暖を取っている俊也たちは、本当に生きた心地を実感していた。
「リズが飛び出してたおかげで何も用意ができてなくてね。晩餉まで時間がかかるよ」
「ゆっくり作って頂いて大丈夫ですよ。お腹も減っていますけど、それよりなんだか眠くて……」
サキとセイラは緊張がすっかり解けたのと、俊也を助けるためキュアヒールを使い、魔力を多量に消費したこともあり、疲労困憊でとても眠そうだ。ミハエルはその様子を悟り「ベッドで休んだ方がいい」と、睡魔に襲われている美人姉妹を客間の寝室へ案内している。彼女たちはベッドに就くとすぐ、静かな寝息で深い眠りに落ちていった。
「俺以上にサキとセイラさんは疲れていたんですね……帰るまでそのことを何も言わなかった。責任を感じます……」
「いやいや、気にすることはないよ。彼女たちが一番分かっている。君の足手まといにならず、助けになりたいんだ」
400年生きてきた人生の先輩の言葉には重みがある。シンプルに加羅藤姉妹の心中を察した言葉であるが、俊也の心に深くそれは届いた。真面目で誠実な彼は、ますますサキとセイラの思いに対し、責任を感じてしまっている。
(この子には逆効果だったかな?)
椅子に座り、うつむいて考え込んでいる俊也を見守りながら、ミハエルは長年の落ち着いた手さばきで野菜や肉を切り分けている。滋養があるシチューを作っているようだ。