第十五話 女魔術師ディーネ
ギルドの親父からの「得物がうまい具合になったらまたここに来い」という威勢のいい声を聞き、俊也達はギルドを出て件の魔術師の店へ歩いている。親父は戻ってきたら正式に仕事を依頼し、俊也が知りたい情報を幾つか教えるつもりらしい。ギルドにとっては情報が商品でもあるので、全ての情報を教えるというわけにはいかないようだ。
「あの人か~。あんまり会いたくないんですけどね」
サキはその店へ行きたくないようで渋々歩いているが、それがなぜなのかは俊也には分かりようがない。俊也にとっては手探りだらけの異世界だが、少しでも前に進んでいくために1日1日できる限りの行動はしておきたいと思っている。
女魔術師の店に着くと、早速俊也はその中へ入った。小ぢんまりとした店内には、怪しげな魔術道具が置いてあるが、一際怪しいのは椅子に座っている、あからさまに妖艶な姿の女魔術師である。
「いらっしゃ~い。あら、なかなか可愛い男の子じゃない」
セイラとは違い、妖艶さを隠すこともない女店主に、サキはちょっとした嫌悪感を覚えている。このいかがわしい女が俊也にまず興味を持ったというのも、警戒するところでもあり、許せないところでもあった。
「久しぶりですね。ディーネさん」
俊也が話を切り出すより前に、サキが女店主にトゲがある声で挨拶した。どうやら、彼女たちはお互い面識があるらしい。しかしながらサキが取っている態度は友好的とは言えない。
「あら、久しぶりね。サキちゃん。私の所へ遊びに来てくれるなんて珍しいじゃない」
ディーネと呼ばれた女店主の方はサキを良くも悪くも思っていないが、サキの方が彼女と合わない様子で「そんなわけないじゃない……」と、聞こえないようにブツブツつぶやいている。
「ディーネさんという方なんですね。俺は矢崎俊也と言います。ギルドの親父さんからこの店に来たら、この木剣がうまい具合になるかもしれないと紹介されて来ました。俺には何のことかよく分からないんですが……」
俊也は竹刀袋から何年も愛用し使い込まれた木刀を出し、ディーネに見せてみた。ディーネはそれを手にとって隅から隅まで見ている。俊也を見た時の好色な目は消えていて、仕事師の真剣な目で鑑定していた。
「ただの可愛い男の子かと思ってたけど、あなた面白いものを持ってきたわね。気に入ったわ。この木剣を魔製器で変化させて、新しいあなたの武器を作ってあげる。いつもだったら10000ソルはもらうんだけど、あなた可愛いから100ソルに負けてあげるわ」
魔製器というものが何か想像できないが、木剣がより威力の高い何かに変化するらしい。ディーネは相当、俊也を気に入ったのか、加工賃を大負けに負けてくれているので、気が変わらない内に新しい武器を作ってもらうことにした。