第百四十七話 死に物狂い
刀に炎の魔力を集中させ、俊也はファイアブレイドを作り出した。炎の刀を構えつつ氷の竜との対峙を続けていたが、均衡を破ったのは目一杯開かれた竜の大口より吐き出される凍てつくアイスブレスであった!
(…………!!)
氷結のブレスは広範囲であり、アクセルがかかっている俊也でも、瞬間的に身を動かしかわせるものではない。ファイアブレイドへの集中を途切れさせずに盾として使い、アイスブレスを相殺する形で何とか受けきっている。だが、氷のブレスは30秒間くらい続いただろうか、その長さと超低温により、俊也の体はいくらかのダメージを負っていた。
「俊也さん! こっちに来れますか!? 治します!」
俊也の後方でサキとセイラは戦いを祈るように見ていたが、凍傷を負った俊也の危険を感じると同時にキュアヒールの集中を始めている。彼女たちの呼び寄せに俊也はうなずき、ダメージによりやや動きが鈍くなった体をそこまで動かした。癒やしの光が俊也を包み、凍傷が回復している。
「そっちに行ったよ!」
「サキ、セイラさん! 下がってて!」
「「はい!」」
もう一度アイスブレスを吐かれたら万事休すである。しかし、アイスドラゴンにとってもブレスの連発は負担が大きいようだ。巨体の足で大地を揺らすように踏みつけながら、俊也を狙い、近づいてくる。
「はっ!」
ファイアブレイドを左手で維持しつつ、俊也は右手でファイアの火球を作り出し、氷の竜の巨体目掛けてそれを放った! 敵の性質から熱は苦手と思われるが、それほどのダメージにはなっていない。冷たく硬い皮膚で効果を防がれた形だ。だが、俊也が火球を放った狙いは他にあった。
高熱の火球に怯んだアイスドラゴンの隙を逃さず、俊也は懐に素早く入り込んでいる。そして狙いを正確につけ、先程、刀で突きを喰らわせた下首の付け根に、両手でもってファイアブレイドによる渾身の突きを再び喰らわせた!
「グギャアアアア!?」
冷たい巨躯の首を上下左右に振り、氷の竜は苦しみにのたうち回っている。まだその目は死んでいない。致命傷までもう少しの攻撃であったが、俊也は連撃の体勢を取らず、アイスドラゴンが見せている死に物狂いの眼光を受けながら、来るであろう一撃必殺の反撃に備えていた。
威嚇の咆哮も無く右の大鉤爪で、氷の竜は俊也の体を木っ端微塵に裂き砕こうとしてきた! 身構えていた俊也は攻撃を見切り体を引いてかわしたが、大鉤爪が左肩をかすめ、ミスリルの肩当てが弾かれ後ろへ飛んでいった!