第百四十六話 アイスドラゴン(中型)
瘴気の源泉を巣にしているのか、それとも何者かが意図的に番竜として置いたのかは分からない。はっきりしているのは冷たく獰猛な牙が、こちらに向けられていることだ。リズはそのアイスドラゴンを発見し、臨戦態勢を取った俊也に対し、素早くアクセルの魔法をかけている。
「お兄ちゃん、あの竜に勝てるの?」
「あれよりもっと小さいやつには勝てた。やってみるしかないな」
アイスドラゴンがいる瘴気の源泉の周りは氷山の麓に近く、この季節でも大地が凍っている。足場が悪いところで戦うのは得策でないと判断し、俊也は瘴気が広がっていない空間まで氷の竜をおびき寄せようとしている。幸いと言えるかどうかは分からないが、アイスドラゴンの標的は俊也である。刀を構えつつ戦い易い空間まで移動していく彼の動きを見て、氷の竜は思惑通り誘導されていった。
(これで戦いやすくはなったが……)
対峙している化物は間違いなく難敵である。ジャールの洞窟で小型のアイスドラゴンを倒してはいるが、この相手はその数倍の大きさがある。それに加えてこの戦いにカラムの傭兵長テッサイはいない。あの頃の俊也とは比較にならないくらい自身の強さを高めているが、氷結の鋭い顔貌と向き合っている彼の勝算は未知数だ。
距離を取りつつアイスドラゴンの動きを俊也は注視し、分析している。体が大きいためか速さはそれほどではない。だが、前足の大鉤爪からの斬撃をまともに喰らえば、ミスリルのプロテクターとセイラの守護符を装備しているとはいえ、一撃で終わってしまう可能性がある。化物の大口からは氷の強力なブレスも吐かれるだろう。
「行ってみるしかないな! リズ! 援護を頼む!」
「わかった!」
意を決した俊也は、アイスドラゴンとの遠間を一瞬で詰め、左脇から竜の下首の付け根を狙い、跳躍から渾身の突きを放った!
「グルォオオオ!!」
突きは命中し、氷の竜に傷を負わせることができた。冷たい血が下首から滴り落ちている。しかし、竜の皮膚は鎧のように硬く、致命傷には遠い。
「グギャアアア!!!」
身の毛もよだつ怒りの咆哮を上げ、アイスドラゴンは着地した俊也の頭を牙で噛み砕いてきた! 何もしなければ彼の頭は一呑みにされてしまう。アクセルの効果もあり、人を越えた速さで身をかわし事なきを得たが、さすがの俊也も冷や汗を滲ませていた。
「勝てないことはないが……気を抜いたら負けるな」
この状況でも俊也は自分を見失っていない。次の攻め手を見出している彼は、魔力の集中を刀に込め始めている。