第百四十四話 瘴気濃き迷路・その3
しばらくの間、魔物に遭遇することもなく、俊也たちは濃い瘴気に囲まれながらも慎重に歩を進めることができた。だが、この突き当りで道が二手に分かれている。ここに来て初めての分岐らしい分岐だ。
「これはどっちかが正解で、どっちかがまずいわけかな?」
「そう考えたくありませんが、そうかも知れませんね。どちらも正解なら良いのでしょうけど」
「道が分かれてるだけだから確認のしようがないわね」
サキとセイラは分かれ道を見て首を捻っている。俊也はリズにも聞いてみたが、
「私にも分からないよ。俊也兄ちゃんの勘で行くしかないね」
「役目が大きいなあ。でも俺が判断するしかなさそうだ」
俊也はリズが言う通り全くの勘で道を選ぼうとしたが、ふと思いついたことがあり、聖浄のトーチで左右の分かれ道を入念に調べたり、マリアの魔除けに何か反応が出ていないかを観察した。左右の道でそれらの調査結果は大差がない。
「もしかしてセイラさんがちらっと言った通り、どっちを選んでも何とかなるのかもしれない」
「トーチにも魔除けにも反応がありませんでしたね。その可能性はあると思います」
パーティーのリーダーはもちろん俊也である。アイテムによる判断材料ができたので、彼は「左に行こう」と、また先頭でトーチを持ちながら歩を慎重に進め始めた。
瘴気の中の道を掻い潜っている最中だが、分岐から進むにつれ、徐々に道が広がってきているのに一行は気付いている。さらに歩を進めると、前方に大きく開けた空間が見えてきた。瘴気による陽光の遮りも少なく、その空間は明るい。左の道は正解だったのだろう、その安堵が俊也たちに広がり、それぞれの足取りも軽くなった。しかし、
「モンスターがいるな! みんな構えて!」
「俊也兄ちゃん! アクセルをかけとくよ!」
魔物の気配をまた察知した俊也は、いち早く三人に危険を知らせている。その後すぐ、瘴気の壁からオオクマデが2匹現れた! 敵を先に悟れていた俊也は、リズからアクセルの魔法を既にかけてもらった後で、戦闘準備ができている。
(体がすごく軽い……まるで羽が生えたようだ)
補助魔法を初めてかけられた俊也は、自分に起こった身体能力の変化に驚いている。同時に2匹のオオクマデ相手でも渡り合える自信が全身にみなぎっていた。
「いくぞ!」
電光石火の一足飛びでオオクマデの懐に入り込むと、俊也は流れるように刀を下段から斬り上げ、熊の化物の一匹に致命傷を与えた! 転瞬、アクセルの効果で既に刀を構え直せており、もう一匹のオオクマデにその切っ先を向けている。