第百四十三話 瘴気濃き迷路・その2
聖浄のトーチの灯りをかざすことで、俊也たちの周りの瘴気が溶けるように消え、道が現れている。その道は俊也たち4人が通るのに充分な広さを持っているが、迷路の全体像からすると勿論一部分に過ぎない。万一トーチを失うことがあれば、俊也たちは瘴気に飲み込まれ、テレミラに帰還できることはないだろう。
「かなり歩いた気がするけど、迷路という割には一本道だな」
「そうだね。うねうね曲がったりはしてるけどね。それに、私もここまで奥に行ったことはないから、こんなに一本道とは思わなかったな」
トーチをかざしつつ俊也が先頭を歩き、案内人のリズが中心となって彼のサポートをする、という隊列で一行は進んでいる。だが、リズも瘴気の迷路の深部に入ったことはないらしく、ここから先の案内はできないようだ。未踏と思われる地を手探りで行くしかない。
慎重を重ねて俊也たちは進んでいるが、瘴気の壁が一行を囲む中、曲がりくねった道のある地点で、俊也は鋭敏にモンスターの気配を感じることができた。素早くサキに聖浄のトーチを渡し、自身は刀を抜いて身構えている。
果たして瘴気の壁から数匹のモンスターが現れた! 俊也は正眼の構えから先を取り、そのうちの一匹を素早く上段から斬り伏せた! 手応えはある。しかし妙なことに、地に転がっているのはバラけた骨の残骸であった。
「これは?」
「そいつはスケルトン! あと二匹いるよ! 気をつけて!」
(アンデッドとかいうやつか。物語の中だけのものと思っていたんだけどな)
タナストラスに来て様々なモンスターを斬った俊也も、アンデッドとの戦闘は初めてである。ただ、既に一匹斬っており、経験を重ねてきた彼は、戦闘の最中に驚きや怖れを考える暇などないことを十分承知している。残り2匹のスケルトンに対し、適切な間合いと動線を瞬間的に探った後、再び正眼に構え、相手の先を取って次々に斬っていった!
「倒せたかな。動きが鈍い分、オオクマデより強くないな」
「……俊也の兄ちゃんは本当に強いんだね。私が魔法で援護する暇もなかった」
魔力の集中により、リズの手中は緑色に光っていたが、それより速く俊也がスケルトンたちを片付けてしまったので、集中するのを止め、彼女はチャーミングな目を丸くし呆気に取られている。
「リズも魔法が使えるのかい? どんなやつかな?」
「アクセルという魔法だよ。俊也兄ちゃんは滅茶苦茶速く動くけど、私の魔法がかかるともっと速くなるよ」
「そういう魔法があるのか。心強いな。次は頼むよ」
いつものように周りの安全を確認した後、刀を仕舞い、俊也はサキとセイラに「大丈夫だった?」と、こんな所でも優しく聞いた。美人姉妹はスケルトンとの俊也の戦闘を見てはいたのだが、彼の強さと相まってその現実感を覚えていない。そんな中、いつもの俊也の笑顔が彼女たちを我に返し、サキとセイラは「「大丈夫です」」と微笑み返す。