第百四十話 秋夜の団欒
「瘴気の源泉に辿り着くまで、立ち昇っている瘴気の壁を掻い潜るように進んでいくわけだが、瘴気にも薄い所と濃い所がある。聖浄のトーチを照らせば薄い瘴気はしばらく消え、道が現れるだろう。ただ、源泉までは入り組んだ迷路になっている。どっちにしろ危険だぞ」
「なるほど。だからこのトーチが必需品なんですね。ありがとうございます。早速明日の朝、行ってみようと思います」
「君は気が早いな。よく言われるだろ? まあそれはそれでいいか。だが、まだ旅の疲れが残っているはずだ。今夜はよく休んでいきなさい」
「せっかちなのは色んな人から言われちゃいますね。お言葉に甘えます」
ミハエルから不可欠な協力を得られ、すっかり互いに心許すこともできたことから、俊也たちは自分たちの事と旅の詳しい経緯を、ミハエルとリズに話した。
「うっすらとそんな気はしてたよ。私は400年生きているが、俊也君は我々の世界に元からいる雰囲気がない。私が見てきた人たちの誰とも当てはまらないんだ」
「400年!? そんなに齢を取られていたんですか!?」
「ははは。我々エルフの種族は1000年生きるのも珍しくない。400年なら、まだ壮年になりかけたくらいさ。色々な経験をして齢を取ってきたとは思うがね」
「400年……気が遠くなるような年月ね……」
サキとセイラもせいぜい人間の40代くらいにしか見えないミハエルを、改めてしげしげと驚いた目で見ている。彼が400年積んできた経験とはどういうものだったのか、長くても100年ほどしか生きられない人間の感覚では想像が難しい。
寒いためか、秋の虫の音もやや弱いのだが、それでも懸命に奏でられる彼ら独自の曲は、夜長に語らう俊也たちに、風情となんとない安心を与えてくれている。
「となると、リズも見た目より齢を取っているのかい?」
「失礼ね! 私はまだ14歳よ!」
「14歳!? 私と一つしか変わらないじゃない?」
「はっはっはっ! いや、久しぶりに賑やかな夜だ。本当に君たちに出会えてよかった。リズのことも話しておこうか。私が400歳としてリズは14歳。エルフとはいえ、齢が離れすぎていると思うだろう」
14歳の割に、体が小さいリズのことをサキは驚いているが、ミハエルが言おうとしている、齢が離れすぎた二人の関係も、俊也たちは大いに気になっていた。
「リズとは遠い血縁があってね。リズが赤ん坊の頃に、ある理由で私が預かったんだ。そういうわけで一緒に暮らしているわけだが……」
言葉をいっとき止めたミハエルは、昔の何かを思い起こすように目を細め、部屋の小窓から遠くに上っている月をしばらく眺めている。