第百三十八話 狩った獣は食べる
仮眠を俊也たちは取らさせてもらい、夕餉の時間になった。三人ともベッドに入った後、泥のように寝てしまい、気づいたらそのような時間になっていたようだ。疲れは宿を貸してくれたミハエルの計らいのおかげでかなり無くなっている。
「起きられましたか。リズと温かいご飯を用意していました。どうぞ座ってお召し上がりください」
「このスープを飲んでみてよ。美味しいんだから」
リズは晩が近くなっても元気一杯だ。彼女に促され、食卓の席についた俊也たちは、何かの獣肉が煮込まれた温かいスープを頂いた。体にその滋味が染み渡り、しっかり力がみなぎってくる感がある。
「おいしい。これは何の肉ですか?」
「君が昼にやっつけたオオクマデの肉さ。この村では貴重な糧になるんだ。村の人に知らせて捌いてもらい、今、君たちが食べているということさ」
「ええっ! いや、驚くことではないですよね。私の町でもアカオオジシを狩って食べますし」
食卓を一緒に囲み、ミハエルの口調はくだけたものに変わった。サキとセイラはオオクマデの肉と聞いて、一瞬食べる手を止めかけたが、その抜群の美味しさと、カラムでも狩った肉を食べることを思い出し、また食を進めている。辺境であるテレミラ村では畑で農作物も作っているが、いかんせん北方であり、食料が充分確保しにくい問題はあるだろう。ましてや獣肉は貴重である。食べられるものは食べるのが自然で普通のことなのだ。
「そういうことだね。それと、この金貨はオオクマデを狩ってくれた報奨金だよ。まあ大きな町のレートよりはかなり少額だが取っておいてくれ」
「これは……ありがとうございます」
熊肉のスープを堪能し力をつけた俊也に、1枚の500ソル金貨をミハエルは手渡している。カラムの町なら弱いラダでさえ、1匹300ソルのレートだが、そこは金も手に入りにくい辺境というところだろう。だが、何もないのとは全く違う。
「さて、ちょっと落ち着いたんじゃないかな。君たちがテレミラまで来た目的を話してくれないか?」
北方の村は日が落ちると、秋夜の涼しさの広がりが速い。涼しいというのは若干適当ではなく寒いくらいだ。それゆえか、ここで鳴く秋の虫の音は、港町ライネルやセイクリッドランドの都で聞いたものより季節が進んだものになっている。
俊也は包み隠すことなくミハエルに、ここまで長旅をしてきた訳を話した。この金髪の知的な壮年エルフは、話に大きな関心を示している。そして、一通り話しをよく理解して聞いてくれた後、ミハエルはこのような協力を申し出た。