第百三十七話 エルフの魔導師ミハエル
「あなた方は旅人ですね。こんな北の辺境までよくいらっしゃった。テレミラには滅多によそから人が訪れることがないので、あなた方は非常に稀な客人です」
「この人たちに助けてもらったんだ。このお兄ちゃん強いんだよ。あのオオクマデを剣で簡単に倒しちゃった」
「オオクマデだと!? リズ! 森に一人で近づいては駄目だと言っているだろう!」
「ごめんなさい……どうしても行きたかったの」
保護者である壮年エルフは、リズへの心配と愛情から強く叱っている。その情が見て取れるので、俊也たちが壮年エルフに対して持った第一印象は悪くない。むしろ信頼できるしっかりした保護者だと、それぞれが思えた。
「全く……次はないぞ。絶対に行ったら駄目だからな。……申し訳ありません、うちのリズが大変ご迷惑をおかけしました。助けていただいて本当にありがとうございます」
「いえいえ、偶然オオクマデに襲われているところを見かけて助けに入ったんですが、間に合ってよかったです」
「リズには一人でオオクマデと戦える程の力はありません。命を助けて頂き感謝ばかりです。……申し遅れました、私はこのテレミラ村の魔導師ミハエルという者です。魔力を用いて色々な道具や武器などを作り、生業としています」
これは良い出会いを得た。俊也はリズを助けたことから始まった巡り合わせの不思議さに、小躍りして喜びたいくらいである。瘴気が濃い氷に閉ざされた地についての情報ばかりでなく、ミハエルの魔導師としての力による協力も得られそうだと考えたが、如何にしろ会ったばかりである。自分の気持を少し抑え、俊也はまず自己紹介し、こう頼んでいる。
「あなたは魔導師ですか。確かに何か凄い力を持っているように感じますね。俺たちのことをよく話していませんでしたね。俺は矢崎俊也という剣士で、旅についてきてくれているのがサキとセイラさんです。彼女たちには癒やしの魔力があり、俺を助けてくれています」
「興味深いですね。俊也さんたちの力にもですが、なぜこんな辺境の中の辺境に来られたのか」
「それについては話しをさせて頂きます。それで厚かましいんですが、一晩ここで泊まらせてもらってもいいでしょうか? 長旅で疲れていて……」
ミハエルは、リズを助けてくれた礼を返さなければと考えていたので、元よりそのつもりである。笑顔で「もちろん。幾晩でもお泊り下さい」と、俊也たちに返し、疲労が溜まりきった彼らを客間のベッドへ案内した。俊也も加羅藤姉妹も、久しぶりに人がいる家での休息で、生気を取り戻している。