第百三十六話 辺境の村テレミラ
リズを助けるため森に突っ込んで行った俊也を心配し、後からサキとセイラもオオクマデとの戦闘跡に小走りでやってきた。見たことがない大きな熊の手を持った異形の熊モンスターの亡骸に、二人はいくらかの驚きと震えを覚えたが、俊也がほんの軽いものとはいえ左腕にかすり傷を負っているのを見ると、すぐ彼の所に駆け寄り、我先にサキもセイラもキュアヒールをかけて治している。
(そんなに大げさに治すような傷かな~?)
助けてもらった手前口に出して言わないが、リズは正直なところそう思っている。だが、少しませているエルフの彼女は、俊也を見るサキとセイラの眼差しから、すぐに(そういうことか)と、俊也たちの関係に気づいた。同時に、そのあたりのことはあまり触れないでおこうとも気を回している。
「ほんと助けてくれてありがとう! テレミラに一緒に来てよ! お礼がしたいんだ」
「テレミラって? 君の村のこと?」
「そうそう。お兄ちゃんたち、ここまで歩いて来たんだから絶対疲れてるだろう? 私の家で休んだらいいよ」
今まで座り込んでいた体勢からリズは立ち上がると、俊也たちの先を歩き、手招きしながらテレミラと呼ばれた村まで先導してくれている。あっけらかんとした元気な娘だ。俊也とサキ、セイラはそれぞれ顔を見合わせ、こんな北で出会えた可愛いエルフの少女との不思議な引合せに笑っていた。
恐らく東の大陸のこれより北には町や村はもうないだろう。そう思われるほどの辺境にある村が、俊也たち一行を迎え入れたテレミラである。村は思いの外にぎやかで、ざっと村内を見渡しただけでも40軒以上は家があるだろうか。こんな北方の辺境にである。店も村内に何軒かあるようで、案外、ここでしかない珍しいものが買えるかもしれない。
「こっちだよ! もうちょっとだよ!」
リズはオオクマデに襲われていた先程のことなど忘れたような元気さだ。彼女がもう少しと手招きした先には、一軒の簡素な家が建っていた。簡素とはいえ寒冷な気候であるこの地で住みやすいように、耐火性に優れたレンガ造りである。煙突もあり、冬は暖炉で家を暖めるのだろう。
「ただいま~! 帰ってきたよ!」
「帰ってこれたか……よかった。リズ、鉄砲玉のように飛び出したらいかんと何回も言ってるだろう?」
「ごめんなさい。でもね、面白い人たちと会えたんだよ?」
「面白い人たち?」
リズの保護者と思しき人(……いや、彼もエルフのようだが)は、元気すぎる彼女を相当心配していたと見え、諭すように叱っている。リズはバツが悪そうだが、その矛先を逸らすためか「面白い人たち」である北方に来た珍客にエルフの保護者の注意を向けさせた。