第百三十五話 エルフの少女リズ
敵の先を取るのは俊也にとって真骨頂である。突然の助太刀にショートボウを構えている少女は驚いており、大きな熊の両手を持ったモンスターにしてもそうであった。
「はっ!」
軽い気合声を発し、俊也はモンスターの大きな右手に上段斬りを喰らわせた! 切り口鋭く刎ね飛ばされたその熊手は、鈍い音を立てて土に落ちる。あまりの早業に、手を切り飛ばされたモンスターは何が起こったのか分からない様子だ。
「?! グォオオオ!!」
痛みと右手を失ったことによるパニックで、大きな熊手をしたモンスターはうずくまりかけた。だが、目の前にいる敵を倒さなければ殺られると、咄嗟に判断し直したのだろう。残された左手を斜め上方から振りかざし、俊也の胴をえぐろうとしてきた!
(…………!)
寸前で鉤爪による斬撃を見切り、身を引いてかわした俊也であるが、少々の見切り違いか油断があったのか、左腕に薄いかすり傷を受けてしまった。しかし、ダメージという程のものではない。
「おぉおおお!!」
肚の底からの気合声である。俊也は体勢を崩した大熊手のモンスターの脇腹に、刃を上にした渾身の突きを入れ、そのまま上に切り上げた! 断末魔を上げることなくモンスターは仕留められている。苦しみを長く与えず仕留めるのは、俊也が考えるせめてもの情けかもしれない。
周囲の安全を確認すると、俊也は刀を拭い、鞘にしまった。突然現れた凄腕の剣士に、救われた礼を言うのも忘れ、ショートボウの少女は唖然としている。
「大丈夫かい」
「あっ、ありがとう。助かったよ」
少女は俊也から声をかけられ、ようやく我に返り礼をまず返した。助けるのに集中していて俊也は気づかなかったが、よく見るとこの少女は人間ではない。耳が尖っており、肌が透き通るように白い。俊也は今まで読んできたファンタジー小説や漫画などを思い起こし、
「君はもしかしてエルフなのかい?」
感動と驚きを顔に表しながら助けた少女に尋ねている。
「そうだよ。私はリズ。オオクマデをやっつけてくれてありがとう。もう駄目かと思ったよ~」
「大丈夫そうでよかった。俺は俊也と言うよ。こいつはオオクマデと呼ばれてるのか。そのまんまだな」
リズは安心で力が抜け、ヘナヘナとその場へ座り込んでしまった。彼女はきれいな金髪をしており、やや切れ長のパッチリ開いた目がチャーミングだ。背は少女ということを差し引いても小さい。少しボーイッシュで元気な女の子である。
オオクマデとの戦いが終わった森は騒々しさが収まり、静かに木々の葉がこの地特有の寒い風を受け揺られている。