第百三十四話 チクショー! こいつめ!!
長旅はその後、森を抜け丘を越えながら、幾日か続いた。道中でモンスターと遭遇することも何度かあったが、今の俊也の強さならいずれも造作ない相手で、難なく刀で撃退している。
そうやって、北へ北へと歩を進めていると、いつしか肌で感じるほど、気候が寒く変わっているのに俊也たちは気づいた。厚着や外套を羽織るなどして寒さをしのいでいる。
「秋も初めなのに寒いですね」
「それだけ北に歩いたんでしょうね」
サキもセイラもよくこんなところまで歩いてついてきてくれたと、俊也は思っている。彼女たちになるべく負担をかけまいとも考えていた。気候が明らかに変わってきたということは、目的地が近いのかもしれない。
そして長旅のある日、俊也たちは前方を見渡した遠くに、秋にも関わらず頂上から麓辺りまで、冷たい氷に覆われた連なる山地を発見した。そして山地の向かい側には、一定規模の村も見つけている。人がかなり住んでいそうで、休息と補給ができると思われる。
「ちょうどいいところに村が……これはありがたい」
「やっと人がいるところで休めそうですね~、長かったな~」
やはりというより当然なのだが、サキとセイラはここまでの長旅で疲労の色が濃く、村から立ち昇る炊事の煙をを見て、心底ホッとしている。俊也においてもそうであり、一行は氷で閉ざされた地の調査の前に、まず村に入り充分な休息を取ることにした。
近づくにつれ、村の炊煙がはっきりと見えてくる。モンスターを監視するのだろうか、そのためと思われる見張り櫓や、レンガ造りの住居も幾軒かある。このような辺境の中の辺境に、おおよそ似つかわしくない規模の村だが、疲れ果ててきている俊也たちにとっては窮境の救いであった。
「あれ? あっちから何か聞こえてこないか?」
「聞こえます。争っているような激しい音ですね」
村へ入ろうとしている時、俊也は村の入り口と反対側の方向にある小さな森から、喧騒が起こっているのを聞きとめた。よく聞くと、それは女の子の声が混じっているようにも聞こえる。ただ事ではないと判断した俊也の体は、反射的にその森へ走っていた。
「チクショー! あっちに行けよコイツめ!!」
喧騒はショートボウを構えている少女と、熊のようなモンスターとのものであった。熊のようなと表現しているのは、普通の熊とは比較にならないくらい大きい両手をモンスターが持っているからだ。手の鉤爪は長く鋭い。
(あれでやられたらまずいな)
モンスターの特徴を冷静に観察しつつ、俊也は刀を抜き、ショートボウで懸命に応戦しようとしている少女を助けるため、そこへ駆け入った!