第百三十三話 結論が出ない葛藤
深夜にふと目が覚めた俊也は、刀をベッドの上で持ち、何やら物思いにふけっている。刀身を抜いてはいない。鞘に入ったそれを見ているのだが、幾度の戦闘を共にしてきたオリジナルウェポンは、彼にこんなことを考えさせていた。
(俺はこの刀を正しく使えているのだろうか?)
狩りのような戦闘にしろ、討伐にしろ、今までくぐり抜けてきたここまでの戦闘で、俊也は曲がったことをしてはいない。人を守るため、助けるための戦いをしてきた。だが、彼はそのこと以外に、
(俺は戦いを楽しんでいるんじゃないか?)
狂気とまでは言えないが、自分の中で戦いに対する感覚の麻痺が広がっているのをうっすら感じているのだ。戦闘を楽しみにさえ思える自分自身に、俊也は幾分迷っている。
(テッサイさんは『迷いがあると命を落とす』というようなことを言ってたっけ。それはそうなんだが)
自分の心がふらついていると危ないのは重々承知している。しかし、俊也はレオン法王と出会ったことで、
『俊ちゃん。この竹刀は正しいことに使うんだよ』
幼い頃、そう優しく諭してくれた祖父の言葉が、今、はっきりと頭を巡って仕方ないのだ。
刀を見ていても結論が出ることはない。俊也はここまで自分を守ってくれている、ともすれば魔性すら持つ相棒をベッドに立てかけると、再び目を閉じて考えるのを止め、やがて眠りに落ちていった。
北方の氷に閉ざされた瘴気濃き処へ行き、調査をする。これが長旅の目的で歩いているわけだが、二日目の朝も晴れで、徒歩の旅に適した天気である。女性を連れた旅の中、できる限り早足で歩を進めており、昨日の一日でかなりの距離を歩くことができた。それ故、かなり北に進んでいるが、まだ気候帯が変わるほどではないのか、寒い気温の変化はそう感じられない。
魔法のロッジでしっかり疲れを取ることができている俊也たち一行は、今日も進む足取りは軽く、仲良く談笑しながら歩いている。昨夜の考え事を引きずっている様子も俊也に見られず、彼はどんどん歩いていたが、
「さっきから見えているんだけど、あれは凄く高い山だな」
「そうですね。山頂の辺りには雪が残っているように見えます。秋なのに」
右手に見えている高い岩山が気になっていた。サキもその山をとても珍しく感じているようだ。彼女は冬でもないのに雪が残っているほど高い山を、今まで見たことがない。
「気になりますか?」
「うん、もしかするとノブツナ先生はあそこにいるのかも……いや、今は北に行くのが先だな」
セイラは秋風にストローハットを抑え、長い黒髪を風にたなびかせながら、雲まで届こうかという高山を少しの間じっと見上げていた。