第百三十二話 冴えてますね
どういう仕組みになっているのかは全く分からないが、俊也たちは目の前で起こったとても不思議な現象に感動し、暫くの間、大きな魔法のロッジを隅から隅まで眺めていた。日暮れのカラスが一鳴きして飛び去った所で、ようやく、こんなことばかりもしていられないと、セイラは気づいた。
「夜が深くなってくる前に、ロッジの中を確認したりしましょう。やらないといけないことは沢山ありますよ」
「そうだわ。ご飯の準備もしないといけないし、あっ! お風呂はあるのかしら?」
「風呂はちょっと無理なんじゃないかな。とにかく入ってみよう」
サキは風呂を気にしているようだが、それは望み薄だろうと俊也は思っている。三人が木製のドアを開き、中へ入って造りを見ているが、簡素ながら広く、頑丈でもあり、所々に明かりを灯す燭台もある。そして驚いたことに浴室があり、備え付けの水も用意されていた。俊也たちは魔法のリュック内に、コンパクト化された水が大量に入った容器や食料を所持して運んでいるが、魔法のロッジ内の水も、同じ要領でコンパクト化されるのだろう。
「こんなに凄いとは思わなかったな……。これなら毎日疲れず旅を続けられるぞ」
「ですが、ロッジで眠っている時に、魔物が襲ってくることはないのでしょうか?」
「「あっ!? そうか」」
セイラが言う通り眠りを取っている間、魔物の襲撃を受けると、ロッジが壊されてしまう。十分ありえることだと三人は考え込んでしまったが、何か対策が作れないかとロッジの外に出てみることにした。
外に出て目立つのは、夜風にたなびくセイクリッドランドの国旗である。魔法のロッジに付いているドアの左側に、それは差し込まれている。先程は気づかなかったが、魔力に長けたサキとセイラはその旗を見て、何やら特別な力を感じるところがあるようだ。
「この国旗からは魔除けの力を感じます。これが入り口の傍にある限り、魔物に襲われることはなさそうですが……」
「母さんがくれたネフィラス様のレリーフよりは、魔除けの力が弱いわね」
大きな魔力を持つ加羅藤姉妹がそう言っているので、間違いはないだろう。俊也は少しの間、旗のたなびきを見て考えたが、頭の中で点と点が線としてつながり、何か閃いたようだ。
「わかった! ちょっと待ってて。こうするよ」
ロッジの入り口と出口になる木製のドアへ、俊也は少し細工を施した後、サキに「レリーフを貸して」と頼み、そのネフィラスのレリーフをドアへ付けてみた。取り外し可能だが、風雨が来ても大丈夫なように、しっかりと付いている。
「魔除けの力がとても大きくなりました。これなら完璧ですね」
「すご~い。俊也さん冴えてますね」
「へへっ、そうだろ?」
剣術の強さ以外のことを褒められたのは、タナストラスではそんなにない俊也である。それ故、普段あまり見せない得意そうな表情を、あどけなさが残る顔に浮かべていた。