第百三十一話 遠く離れても母の愛
極めて自然で流麗な動きであった。左のラダの胴を高速の振りで2つにすると、瞬間が転じる間もなく残り2匹の頭は、刎ね上げた刀により上に飛んだかと思うと、毬のように地へ落ちている。
(…………)
俊也は周りにまだモンスターがいないか安全を無言で確認した後、刀を紙で拭い、何事もなかったような表情で鞘にしまっている。
「大丈夫かい? サキ、セイラさん?」
彼は息一つ切れていない。どう見ても普段通りの俊也だ。美人姉妹は、あまりのことに何も起こっていなかったような錯覚で、混乱しそうになっているが、
「あっ……はい! 大丈夫です!」
「はい。お怪我の心配はなかったようですね」
表情を笑顔に整え、無事を俊也に伝えた。サキは、俊也がタナストラスに来たばかりの頃、ラダ2匹に対してそれなりに苦戦していたのを知っているので、それもあり、努めて笑顔を保つのが大変なようだ。彼女たちの感じる凄いと強いの範疇を、既に大きく彼は越えている。正直なところ加羅藤姉妹は、俊也の強さに少しの怖れさえ覚えていた。
「それにしても、なんでラダは俺だけを狙ってきたのかな? まあ、それでいいんだけど」
「なぜでしょうね?」
「なんでだろ? あっ、分かった! 私がこれを持ってたからだ」
手を打って何かに気づいたサキは、小物入れから母マリアが渡してくれた、魔除けのレリーフを取り出し、俊也とセイラへ交互に見せている。
「お母さんの魔除けですよ。これにモンスターを寄せ付けない力があるんだわ」
「そうか……マリアさんが守ってくれているんだね」
傾いてきた日が照らす、北方への頼りない道を遠くまで眺めながら、俊也はタナストラスでの母とも言える、優しいマリアのことを思い浮かべていた。サキとセイラにとっては、実のずっと一緒に暮らしてきた母である。母の愛を思う彼女たちの心情はいかばかりか測れない。
ラダを撃退した後、まだ少し歩を進めたが、日は自然の摂理に従って落ち、辺りは暗い夜になってきた。だが、両手に花の俊也は、このように周りが草むらに囲まれた道の途中であっても、野宿をする必要はない。
「さーて、これを今日は楽しみにしていたんだ。このへんでいいかな? 置いて広げてみるよ?」
「どうなるのでしょう? 楽しみですね」
三人とも、初めて使う魔法のロッジにわくわくしている。俊也は慎重に小箱から、小さな小屋の模型を取り出し、十分な広いスペースがある地面においた。魔法のロッジはみるみる大きくなり、大人8人は泊まれそうなほどの立派さになっている。