第百二十九話 北方への出発
「うちの爺さんがノブツナ先生と仲が良くてよく話しをしていたんだけどな。爺さんが生きてた時にこんなことを聞いたよ。『ノブツナ先生はどこかの高い山に行ってしまった』とね」
「高い山ですか……」
「セイクリッドランドの領土にある山なのは間違いないと思うんだが、けっこう高い山はあるからなあ。これ以上は分からんな」
「いえ、貴重な話を聞かせて頂きました。ありがとうございます」
俊也は農家の人に一礼して、その場を去った。他に話が聞けそうな農家の人もちらほら周りにいたが、この人が一番よくノブツナ先生のことを知っているくらいだろうと考え、情報収集を止め、都の中心街へ戻っている。
聖都での二日目の夕日が、まだまだ行き交う人で賑わう街を照らし、都らしさを強調していたが、その中でも目立っていたのが浅黄色のワンピースを着た加羅藤姉妹の美しさであった。
「とっくに買い物を済ませて待ちくたびれちゃいましたよ~。時間がかかりましたね」
「ごめんごめん。ちょっとのんびりしすぎちゃったな」
多少、一人で羽根を伸ばしていた感がある俊也は、放って置かれ、ややふくれっ面のサキに面目なさそうだ。セイラも待ちぼうけだったはずだが、それを俊也に責めることはなく、
「何か良い手がかりは見つかりましたか?」
と、年下の恋人を少しあやすような口調で尋ねてきた。サキとセイラは1つしか齢が違わないはずだが、わずかに年長な彼女には大人の余裕が身につき始めているようである。
「はい、見つかりました。だけど、それも雲をつかむような話なんですよ。あれ? なんかジェシカさんみたいなことを俺言ってるな?」
「ふふふ。伝染っちゃったんですかね。そのお話は、宿でゆっくり聞きましょうか。夕方になりましたからね」
「そうね。で、準備もできたし、明日いよいよ旅に出ましょ!」
リードしてくれるセイラとサキに引っ張られ、俊也は晩になる前の落ちかけた西日を受けながら、宿に帰っていった。俊也自身は彼女たちを守り、リードしているつもりなのだが、実のところ真逆なのかもしれない。
三人がぐっすり眠り、迎えた出発の朝もよく晴れている。セイクリッドランドは晴れが多い気候なのかもしれない。
「「ネフィラス様。この旅にあなたの加護をお授け下さい」」
長旅へ出るセイクリッドランドの門をくぐる前に、敬虔な修道女であるサキとセイラは、朝日に映える厳かな大聖堂に祈りを捧げた。今までにない遠方へ歩くことになる。その先、俊也たちに待ち受けるものはなんであろうか?