第百二十八話 ノブツナ先生を探して
ギルドを出てすぐに、俊也はザイールからの封書を開けてみた。中には手紙が一枚入っていたのだが、それにはこう書かれている。
(やあ、旅は順調かい? 俊也君が探しているノブツナ先生について分かったことがあるんで知らせるよ。セイクリッドランドの都で昔、町の東外れに小さな剣術の錬成場があったらしいんだが、どうやらそこにいたのがノブツナ先生らしい、だが、今では錬成場をたたまれているそうだ。その後の消息は分からないが、その寂れてしまった錬成場跡の周りで話を聞いてみたら何か分かるかもしれないね。じゃあ、また何か情報が入ったら知らせるよ)
かなりはっきりした手がかりではあるが、ノブツナの消息は分からないようだ。会って修行をつけてもらえるまで、まだまだ捜索段階がありそうだが、とにかくザイールの情報を頼りに、町の東外れまで俊也は行ってみることにした。
聖都の賑わいは中心街から広範囲に渡っているが、町外れまで来ると建物も人もまばらで、広がっているのは大きな麦畑が主である。俊也は、旅へ出発する用意に時間をかけないようにするため、サキとセイラに1000ソルを渡し、必要な回復アイテムなどを街で買ってきて欲しいと、ここに来る前に頼んでいる。そういうわけで、彼は今一人で行動しているのだが、久しぶりの完全な一人の時間が取れたので、ちょっとした息抜きになっていた。
(サキとセイラさんとの旅は楽しいし、連れてきたのは俺なんだけど、一人の時間もいいもんだな)
個人競技の剣道にずっと打ち込んできたからか、俊也は孤独が嫌いではない。そんなことを考えながら辺りを探していると、彼はどうやらそれらしい寂れた木造の建物を見つけた。文字が消えかかり見えにくいが看板もある。
(ノブツナ剣術錬成場)
ストレートに「ノブツナ」という名が書いてあるので間違いないだろう。ただ、庭に草が生い茂ったその建物には、それ以上のノブツナ先生につながる手がかりはなさそうだ。
「うーん、これだけじゃどうにもならないな。この辺りの人に聞いてみないと」
看板を眺めていても埒が明かないことを悟った俊也は、ちょうど近くの麦畑で仕事をしている農家の人を尋ねることができ、この錬成場とノブツナ先生について情報を得ようとした。
「ああ、確かに15年ほど前だったかな。ノブツナというとても強い剣術の先生が住んでいらっしゃったよ」
「なるほど、いらっしゃったのは間違いないんですね。今はどこに住まわれているか分かりますか?」
小首を農家の人はひねったので俊也は少しがっかりしたが、「あっ、そうだ」と、日によく顔が焼けたその人は、何かを思い出したようであった。