第百二十七話 齢に不相応な金
「いらっしゃいませ。当行にご用でしょうか? ギルドにご用でしょうか?」
「ええと、俺は矢崎俊也という者ですが、ザイールという交易商の方から、何か連絡は来ていませんか? ギルドに用があります」
柔和な職員は少しだけ驚いた表情を見せた。こんな若い青少年がセイクリッドランドでも話題の剣士、矢崎俊也であるとは思わなかったのだろう。
「大変失礼いたしました。矢崎俊也様だったのですね。確かにザイール様から情報を預かっております。少々お待ち下さい」
冷静さをすぐに取り戻すと、青年職員は何かを取りに行くために、受付を一時離れた。やはり、他で見てきたギルドとは全く対応が違い、丁寧である。
「お待たせしました。封書を一通預かっております。ノブツナという方について書かれた物とだけ伺っております。お受け取り下さい」
「これは早速だな。ありがとうございます」
ライネルのギルドでも紹介状がとても役に立ったが、ザイールは非常に頼りになる人物だと、俊也は封書を受け取りながら再確認している。しかも、最もセイクリッドランドで会いたい、イットウサイの師ノブツナについての情報を早くも得たのだ。
「ご用は他にございませんか。ここは銀行でもありますので、口座を作って頂ければ預金や引き出しなども行えますが」
「口座ですか……そうですね」
「俊也さん、預金をしておくのがいいと思いますよ。持ち歩くには多すぎるお金をお持ちですから」
助言をしてくれているのはセイラだ。今回の旅で、俊也は報奨金などで稼いだタナストラスでの通貨、27000ソルという全財産を持ち歩いているが、この金額は相当なもので、簡素な家なら一軒買えるくらいである。常時、この額を所持しているのは危険性などからいっても適当ではない。
「セイラさんが言う通りそれが良さそうですね。口座を作って預金をします」
「ありがとうございます。預金額はどのくらいをお考えですか?」
「15000ソル預けます」
自分が持っているのが、かなりの大金であることは分かっているので、小声で銀行兼ギルド職員である青年に額を伝えたのだが、それを聞いてかなり職員は驚いている。目が丸くなった程だ。どう考えても、15、6歳に見える紅顔残る彼が、持つと思われる金額ではないようだ。
「……かしこまりました。では、この口座開設書類に必要事項をご記入お願いします」
この職員は金融のプロである。そうではあるが、実際に年若い俊也が15000ソル分の金貨を窓口に置くと、再び驚愕してしまった。