第百二十五話 転写の紙
白銀のブローチを受け取ったジェシカは、もう一人の救世主がどこにいるか調べるため俊也たちに一礼すると、どこかに去って行った。この聖都にそういった調査ができる施設があるのかもしれない。
「む、考えにないことが起こったので本題を忘れる所だった。俊也さん、書簡に書いた依頼のことを話そう」
俊也も、白銀の宝玉に関するここで起こったことが意外すぎて、レオン法王に言われ、何のために大聖堂に来たのかを思い出し直し、ハッとした。
「そうでした。東のこの大陸の北に、瘴気濃き所があるとありましたが」
「うむ。セイクリッドランドの領土はこの大陸において広いのだが、件の場所は領土外になる。冬の早い時期、完全に氷で閉ざされる所でな。だが、今は秋になったばかりじゃ。足を速めれば調査もしやすいじゃろう」
「なるほど。とにかく北に向かえばいいんですね?」
「ふふふ、まあもう少し話を聞きなさい。北に行って欲しいのはそうなのだが、瘴気によるのか、モンスターが数多く現れるという噂がある。十分な準備を事前にしておきなさい」
「はい、承りました」
これで依頼を正式に受けたことになる。レオン法王はその言葉を聞いてうなずくと、傍の使用人を呼び、依頼報酬の半金5000ソルを持ってこさせ、俊也に渡している。
「瘴気が最も濃い場所で、何が起こっているかをよく調べてくれ。そのためにこれも渡しておこう」
法王は、何やら透明な20センチ四方のフィルムのような物を5枚程、俊也へ手渡した。その形状を見る限り、おおよそどういうアイテムか予想はつくが、使用方法を聞いてみている。
「これは……俺の世界では写真という物がありますが、それかな……?」
「ほう、真を写すと書いて写真か。これは便利な言葉を聞いた。皆に広めるとしよう。この透明な紙は、まさしくそれじゃ。タナストラスでは転写の紙と呼ばれる貴重品でな。どれ、記念も兼ねて一枚取ってみるか」
どうやら集合写真を撮ろうという話らしい、皆を集め並べさせると、使用人に転写の紙で写真を撮らせている。皆の姿が紙に収まるようにそれを広げると、使用人は転写の紙の右端にある、赤い印を引っ張り取った。すると不思議なことに、きれいな集合写真が撮れている。
「これは良いのが撮れたな。後で飾っておくとしよう。俊也さん、この要領で写真も撮ってきて欲しい」
依頼の説明はこれで大方終わったのだが、レオン法王は集合写真を満足そうに眺めている。どうやら、転写の紙で写真を撮るのが、法王の趣味や楽しみでもあるようだ。