第百二十四話 神竜の巫女ジェシカ
「こんなすごい物を……ありがとうございます。大切に使います」
「うむ。存分に使い、役立たせなさい」
レオン法王は俊也たちによく心許したのか、多少砕けた口調で話すようになった。魔法のロッジの価値が分かった俊也は、レオン法王に最高の感謝を示し、それを魔法のリュックに収納した。コンパクトな小箱に入っている小屋が、さらにコンパクトに小箱ごとしまわれている。
「では、この白銀のブローチを」
「うむ。それなんだが、君の前にいるジェシカに渡してくれんかね?」
銀髪の巫女ジェシカは落ち着いているのか、あまり感情を表に出さない性質なのか、謁見室に来て以来ずっと無表情に近い。彼女の端正な三日月目で見つめられている俊也は、その目に自分のことを見透かされているような、不可思議で少しの不安すら感覚として覚えている。
「サキ。ジェシカさんに渡してあげて」
「わかりました。どうぞ、ジェシカさん。白銀のブローチをお返しします」
「ありがとうございます」
サキからジェシカの手にブローチが渡されるや否や、その宝玉部分が七色に光り輝き始めた! サキが真紅の宝玉で、俊也を探し当てた時と一緒の輝きである。だが、その輝きはそれほど強いものではなく、少しの時間が経つと、また静かな光沢を持つ通常の輝きに戻った。
「ふむ、そうか。俊也さん、どうやらあなたと同じ救世主の適性を持つ方が、もう一人いらっしゃるようじゃ」
「えっ!? いや……そうか。あの七色の輝きは俺の時と同じ……」
「そうですな。我が国の言い伝えと古文書にこうある。『神竜の巫女の手で白銀の宝玉が七色に光る時、世界の救世主が現れん』とな。ジェシカ、お前には何か感ずるところがあったか?」
セイクリッドランドの伝説通りのことが自分の目の前で起こったのだが、それでもジェシカは無表情で驚きもせず、
「とても強い力の可能性を感じました。今も感じています。ですがそれは、今、雲をつかむようなものです」
と、巫女としてか、彼女が持つ言い回しなのか、独特な答え方で法王に返している。
「なるほど。どうも、どの世界のどこにいるのか、今はあやふやで分からぬようだ。急いで調べなければならぬな」
「そうですか。俺に少し心当たりがあるんですが、いやまさかな……」
「ほう、救世主様の、ということかな?」
「はい。ですが……やはり聞かなかったことにして下さい」
「そうか? それならそうしておこう」
俊也は何かを言いかけたが、それに自信がないようだ。法王は怪訝な顔もせず、それ以上、彼に詮索をかけることもない。こういった部分も俊也の祖父によく似ているらしく、俊也には法王が自分のおじいちゃんに見えて仕方がなかった。