第百二十三話 代わりに差し上げよう
「あっ!? はい、分かりました」
一瞬だけ、俊也が何のことを言っているんだろうとサキは考えていたが、忘れかけていた心当たりを思い出し、身につけていた小物入れから白銀のブローチを取り出し、レオン法王に見せた。ブローチの宝玉部分は静かな輝きを放っている。
「これは驚いた。俊也さん、あなたはどこでこれを見つけましたか? まさしく、この大聖堂にあったものです」
法王は目を丸くして驚き、白銀のブローチをじっと見つめている。どう見直しても法王の記憶にある、セイクリッドランドの宝に相違ないのだろう。
「西の大陸にジャールの町という所があるのですが、その町内にある山林の洞窟で見つけました」
「ふむ。大昔、このブローチが盗まれ、大騒ぎになったと国史にあるのですが、まさか見つけて頂けるとは思っておりませんでした」
その後、レオン法王はしばらく俊也たちと向き合った。何かを静かに考えていたようだが、彼らにこう持ちかけている。
「厚かましいのですが俊也さん。この白銀の宝玉を、セイクリッドランドにお譲り頂けませんか?」
「分かりました。盗難に遭い、お困りだったでしょう。お返しします」
「いやいや、少しお待ち下さい。おそらく、その実直な素直さがあなたの長所なのでしょうが、全く何もお返しせずに譲って頂くわけには参りません」
傍らにいる近衛兵に小声で伝え、何かを持ってくるようにレオン法王は指示を出した。程なくして、黒い修道服を着た銀髪の若く美しい少女が現れ、手に何かの宝物が入った小箱を携えている。齢はサキ、セイラと同じくらいに見え、神秘的な透き通った目でこちらを見ていた。
「来てくれたか。まず、この方々にご挨拶なさい」
法王に対してこくりとうなずくと、銀髪の美少女は、
「ジェシカと申します。セイクリッドランドに仕える巫女です。法王から言付かり、こちらをお持ちしました」
と、透明感と清らかさがある声で挨拶と会釈をし、宝物を俊也の前へ差し出した。俊也はレオン法王に目で確認を取った後、宝物の小箱を受け取っている。
「開けてみなさい。君たちに必要な物が入っているよ」
法王に促され小箱を開けてみると、中にはいっていたのは小さく手の込んだ小屋の模型であった。よく見ると、白が赤と赤で縦に挟まれたセイクリッドランドの小さな国旗が付いている。
「?? レオン法王? これはいったい……?」
「魔法のロッジというものだよ。その小箱から取り出し地に置けば、中で人が泊まれる程の大きさに広がる。小箱にしまう時は、国旗を外せばすぐにその大きさに縮む」
つまり、どこでもこれを使って休息を取れるということだろう。俊也たちの旅にとって、非常に大きな助けになるアイテムだ。