第百二十二話 生き写し
俊也の幼少期はあまり丈夫ではなく、よく体調を崩していた。彼の優しい父と母は、どうしてやればいいものかと非常に心配したものだった。
そんな俊也が丈夫な体になっていくきっかけを作ってくれたのが、彼の父方の祖父から渡してもらった一本の子供用竹刀である。俊也のおじいちゃんは、優しく幼少期の俊也の手を取って竹刀を握らせ、
「俊ちゃん、これを元気な時に少し振ってごらん。少しでいいんだよ」
幼い彼をいたわるように無理のないように、竹刀の振り方を教えてくれた。俊也の祖父は素晴らしい剣道家であり剣士だったのだ。
「こうするの?」
「そうそう、上手だよ。筋がいい」
意外にすぐ、素振りの型を覚えた孫の剣才に、俊也の祖父は目を細めていたと、後になって彼は父と母から聞いたそうだ。そして、おじいちゃんは俊也の右手を握り、
「気に入ったかい?」
「うん!」
「そうか。いい子だ。俊ちゃん、この竹刀は正しいことに使うんだよ」
「うん!」
可愛らしい孫の返事を聞くと、頭をどこまでも優しくなでてくれたのを俊也は覚えている。そこから彼は、剣の道を進んでいき今に至る。
レオン法王の目は俊也の祖父の生き写しに見えた。このおおらかなおじいちゃんは、俊也の様子を悟っているのか、しばらく彼の右手を包み込んだまま黙っている。
「……すみません。挨拶が遅れました。俺が西の大陸のカラムから来た矢崎俊也です。この二人はサキとセイラで、協力者として一緒に来てもらいました」
「しっかりした若者だ。それに美しいお嬢さんたちですな。あなた方もよくいらっしゃった」
「ありがとうございます。お目通り叶いまして光栄です。レオン法王」
挨拶だけで、法王の人徳を十分に俊也たちは感じられている。まずは自分のここまでの経緯をしっかり伝えなければならないと考えた俊也は、彼の祖父に似すぎるくらい似ているレオン法王に一通り話をした。
「なるほど、あなたにはとてつもなく大きな可能性が見える。さもあるでしょう。それにしても……真紅の宝玉を用いて、そこにいるサキさんがあなたを探し出したと?」
「はい、信じられないかもしれませんが、そういうことがありました」
「いやいや、信じていないわけではなくてですな。セイクリッドランドにも色は違いますが、その宝玉にうり二つのものが大昔にあったのです」
記憶の糸をたどるようにして話してくれているレオン法王を見て、俊也もハッと何かを思い出したらしく、
「サキ、君にあげたもう一つのブローチを出してくれないか」
と、傍にいるサキへ慌てたように頼んだ。