第百二十一話 大聖堂のおじいちゃん
聖都での朝は清々しい晴れの陽光から始まった。朝日を受けて映える大聖堂の荘厳な美しさも素晴らしい。
「ここまで何日かかったかなあ。やっとレオン法王に会えるのか」
「カラムまで聞こえてきた噂だと、とてもおおらかで優しい方らしいですよ。俊也さんとぴったり合いそうな気がします」
「そうだといいなあ」
レオン法王の人物像がよくわからないままだった俊也だが、サキが人となりの情報をここで教えてくれたので、幾分、謁見の不安が和らぎ、大聖堂の門まで進む足取りが軽くなっている。
衛兵が守備する大門まで来た俊也たちは、話を通すため、そこの責任者である衛兵長に法王からの書簡を見せ、自分が矢崎俊也であることを示した。衛兵はかしこまると共に跪き、
「セイクリッドランドへのご来訪、心より感謝致します、矢崎俊也様。どうぞお通り下さい」
最高の敬意を表すと大門は開かれ、大聖堂まで続く石畳の大路が三人の目の前に広がった。
中に入って俊也たちは修道女などに聞いたのだが、通常の日に一般国民が大聖堂に入れることは例外を除いてないらしく、それらの人たちが法王と会えるのは、何かの記念日や祝日だけらしい。そのために大門に衛兵がいたのだろう。
重厚な造りと高い吹き抜け、広さと大きさがある大聖堂内部は、歴史の年月も遠く数多く重ねているためか、俊也はもちろん、タナストラスの住人であるサキとセイラも、今まで見たことがない厳格な美しさを感じている。
「こちらにレオン法王がおわせられます。あなたのことを首を長くしてお待ちでした」
案内の近衛兵が、法王がいる謁見室まで一行を連れてきてくれた。法王であれ何であれ、会ってみないと話が分からない。固唾は飲んでいるが、いつもどおり果断な俊也は、怖じることなくその部屋へ入っていく。
謁見室には一人の近衛兵の他に、品が良い、白の法衣を着たお爺さんが座っていた。それが法王なのだが、法王に対して俊也が持った第一印象がそれである。俊也の父方の祖父はもう亡くなっているが、法王は彼のその祖父によく似ており、
(おじいちゃん?)
と、一瞬見紛えた程である。
「やあ、よくいらっしゃった、矢崎俊也さん。私がセイクリッドランド第26代法王、レオンです」
柔らかい微笑みをたたえながら立ち上がり、レオン法王は俊也の右手をその両手で優しく包んでいる。
何かとても懐かしいものを思い出した俊也は、法王の顔を見て、こみ上げてくる熱いものを我慢するのに懸命だった。