第百二十話 妙な質問
今日は曇天だが、雨が降りそうな雰囲気の雲ではない。秋になったとはいえ多少の暑さはまだ残っており、街道沿いの草いきれが水分を蒸らしている感はある。
港町ライネルから出た俊也たち一行はランドタートル討伐の報酬として、約束通り馬と馬車を借りることができている。セイクリッドランドまで、これで半日と少しで移動ができる。旅人を襲っていた亀のモンスターが退治された知らせが広まっているのだろう、街道の往来は活気を取り戻していた。
「俊也さん、変なこと聞いていいですか?」
「なんだろうな? まあいいよ」
「トラネスでイットウサイ先生と俊也さんだけで話してましたよね? 何を話したんです?」
後ろめたいことはないのだが、俊也は動揺し、馬の歩みを止めてしまった。馬車もその場で一時止まり、中から俊也と話しているサキは、俊也を非常にいぶかしんだ。セイラもそう思っているのだろう、表情を少し変えて彼を見ている。
嘘がつけないのが俊也の長所であり短所なのだが、うまくごまかすことはできないとこの場も考え、正直に、
「ユリさんの許婚者になってくれないか、という話をされたよ」
「ええええっっ!?」
「…………!?」
まず、そうとだけ答えた。ここまで敢えてそれについて聞かなかったサキとセイラは、ひっくり返りそうになるくらい驚いたが、二人とも俊也の誠実さとあまり話すのが得意ではない性質をよく知っている。そこを含めてこの美人姉妹は彼が好きなのである。俊也を信じて質問を続けている。
「ど、どう返事をしたんですか!?」
「俺は日本という異世界から来た人間だから、即答できない、返事自体がしにくいと答えたよ。俺もびっくりしたよ」
「そうですか……俊也さんらしいですね」
サキとセイラは一応は胸をなでおろした。だが、俊也が女剣士ユリに悪い心象を持っていないことは先刻承知である。うかうかしてはいられないと、妙な気を引き締め直し、また曇天の街道を進み始めた。
雲が晴れ、夕日が荘厳な大聖堂を照らし、その神聖さを際立たせると共に、信仰の都に一日の終りが訪れたことを知らせる聖鐘が鳴っている。宗教国家セイクリッドランドの都へ、ついに到着した。
「すごい……あちこちにネフィラス様のレリーフがある大きな建物がありますね」
「大聖堂だけじゃなくて大きな教会が多いわね。それだけネフィラス様が崇められているのね」
サキとセイラはネフィラス教の修道女である。二人とも俊也に対して積極的なのは、俊也の世界の修道女とは教義が違うからであろう。都の神聖さに感動している彼女たちを見て、俊也も何か満足感を覚えている。
都に入ってしばらくの間そうしていたが、我に返り、今日はもう暮れていることに気づいた一行は、一晩の眠りに就く宿へ向かった。