第十二話 落ち着く部屋と町のギルドへ
案内された部屋は8帖ほどの間取りがあり簡素だが、窓からの見晴らしはよかった。近くの農家が耕しているのだろう、広がりがある畑が見え景色はのどかだ。
(これは落ち着けそうでいい部屋だ。しばらくここで頑張ってみるか)
俊也は与えてもらったこの部屋をとても気に入り、少し部屋の様子を見回している。備え付けられている家具類は少なく、ベッドと小机、小さいテーブル、それに十冊ほどの本が収められている本棚があるだけだ。彼はベッドの傍にある小机に、自分の家から持ってきた両親と写っている写真立てをコトリと置いた。俊也が樫木坂高校に入学する日に校門の前で取った写真だ。彼も彼の両親も嬉しそうないい笑顔で笑っている。
(あっちでは少しの時間しか経たないけど、何年も父さん母さんに会えないだろうな……)
十分その覚悟はしていたつもりだが、写真立てを見るとそういう感傷を俊也は少し抱いてしまった。彼はまだ15歳の青少年である、それも当然のことで無理もない。
「よし! こうしててもしょうがないな。昼ごはんをごちそうになろう」
精神力がある彼は切り替えが早い。一つパチンと両手で自分の顔を軽く叩き気合を入れ直すと、部屋を出て食事が用意されているダイニングへ向かった。
加羅藤家の母と娘との昼食はとても楽しいものだった。食事をしながら色々話を聞くと、この教会を切り盛りしているのはマリアと娘のセイラ、サキで、サキ達の父は神父ではなく、完全に商人として生業を営んでいるらしい。また、救世主として俊也をタナストラスに迎えたが、実のところこの世界がどうして数年前から不穏になってきているのか、はっきりとした原因はまだつかめておらず、世界の様々な国や地域でそれを調べている最中だということも分かってきた。
皆との食事を終えた俊也は今得られる情報をできるだけ集めたいのと、ラダの尻尾を換金するために町のギルドへ向かっている。彼には当然、カラムの町の土地勘はないので、サキに同行してもらっている。
「顔はみんな日本人と同じみたいだけど、色んな髪の人がいるんだな」
「はい。だから私の赤い髪も、タナストラスでは全然珍しくないんですよ」
町の雑踏を進みながら、俊也は物珍しそうに辺りや辺りの歩いている人々を見ている。チラチラと日本で見る外人のような顔をした人もいるが、ほとんどが日本人と同じ系統の顔をしていて、彼がその中に紛れると全く違和感はなかった。ただ、この世界に来る前に着てきたジャージ姿では目立つので、マリアから服を借りて着替えている。青と白を基調としたさっぱりとした上下だ。
また、彼は往来を見ていて気づいたことがあった。ほとんどの女性が積極的に相手の男の手を握ったり、腕を組んだりしている。どうも、サキやセイラが例外ではなく、タナストラスの女性は男性に対して抵抗がなく、アプローチも自分からどんどん行う文化があるようだ。
(これはまだ色々馴染むのに苦労するかもな……)
と、考えている間もなく、サキは俊也の左手を握り寄り添うように歩いている。彼女の柔らかい手と繋いでいると俊也も安心感を覚え、その手を放す理由もなくそのままギルドへ歩いていった。